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リアルなグラフィックスは学びを妨げる!?写真、動画、VRで効果的な学びができるわけじゃない理由

研究

私が校長を務めるスタンフォード大学・オンラインハイスクールでは、教員の皆さんに、常にEdTechの先端を感じていて欲しい、考えていて欲しい、という思いを持って、定期的に新しいテクノロジーの紹介の機会を設けています。

月に一回、丸一日、全職員で、全体ミーティングや、報告会、トレーニングをやる校内カンファレンスの日があるのですが、そこに、EdTechのスタートアップの製品のデモを招待したりしています。

近年はやバーチャルリアリティー(VR)の技術をオンライン教育に応用した製品がいくつかあったのですが、そうした製品に、大興奮な気持ちの傍ら、ちょっとした疑問を持ってきました。

VR技術が、人の感情に働きかける効果が強いので、オンラインの学校で、コミュニティーの感覚を高めたり、また、生徒のエンパシーの能力を高めたりするのに、ポテンシャルがあるのは確かで、研究も進んでいます。

そういった視点から、今後もVR技術には注目していきたいと思っています。

でも、そういう社会性とか感情の教育とかの側面はともかく、VRで、よりリアルな教材を作ることで、学習効果が上がるかどうかということは疑問です。

見えにくいものが、見えやすくなる。すると理解しやすくなる。学習効果が上がる。

わかる気もしないでもないですが、少し短絡的な考えのように思えます。

なぜなら、ディテイルに乏しい図解を試行錯誤することで、題材とより積極的に向き合い、考えることで、いい学びに繋がるようにも考えられるからです。

「分かりやすすぎる」教材では、分かった気になるだけで、身につかないのではないか。

ずっとそんなふうに思ってきたのですが、最近、この私の考え方にちょっと関連する研究がかなり蓄積されてきたということに気づきました。

てんとう虫の図解の研究

まず、こんな研究に出会いました。大学生にてんとう虫の変態について教えます。

卵から、幼虫に、サナギになって、成虫に。

このことを違う図解を使って生徒に学ばせます。

一つのグループは、色やディテールに富んだ鮮やかなグラフィックスを使った教材を使います。

もう一方は、白黒で模式図的に卵から成虫になっていく、てんとう虫のプロセスを描いたものです。

てんとう虫の変態を学んだ後に、生徒たちは昆虫の変態についてのテストを受けます。

この実験で非常に興味深い結果がでました。まず、てんとう虫の変態についての学習効果に差はありませんでした。どちらのグループも正しくてんとう虫の変態を理解していました。

しかし、他の昆虫の変態についての「応用」問題で結果が分かれます。鮮やかなグラフィックスを使った生徒たちよりも、模式図を使った生徒たちの方が成績が良かったのです。

あまりに鮮やかにてんとう虫が描かれている。しかし、色や、いちいちのディテールは、昆虫が体の形をかえる「変態」というコンセプトを理解するのに関係がない。

そのため、変態のコンセプト自体を理解することが妨げられて、他の昆虫に変態のコンセプトを当てはめて、応用することができなかったのではないか。

蓄積されたSeductive Detailに関する研究

鮮やかで興味深いディテールだが、目的の概念を学ぶのに必要がないディテールは、「Seductive Detail」と呼ばれて研究が重さねられてきました。

「Seductive」は「誘惑的な」ということなので、「そそのかし詳細」とでも訳すことができますでしょうか。

上の例では、図解の色やディテールですが、テキストのイラストや、テキストの文章中の興味深いが学びに関係のないディテールも、「そそのかし詳細」の中に入れることができます。

実際、そうした「そそのかし詳細」が学習を妨げてしまう効果「そそのかし効果」(seductive detail effect)を研究した数々の研究をメタ分析した論文もあるくらいです。(“A review of research and a meta-analysis of the seductive detail effect “ Günter Daniel Rey)

そのメタ分析によれば、そそのかし詳細で、個々のトピック(「てんとう虫の変態」など)の学びが妨げられる度合いは低いものの、学んだコンセプト(「変態」)の応用を妨げる効果は多くの論文で確認されているということです。

また、この現象は、「そそのかし詳細」があることで、必要のない情報を脳が処理してしまうため、脳のワーキングメモリーに負荷がかかり、重要なディテールへの集中がしづらくなってしまうという形で解釈がなされています。今後の研究でなぜ「そそのかし効果」が起きてしまうのかということが解明されてくることでしょう。

また、比較的少数ではあるものの、「そそのかし効果」が起きなかった場合や、「そそのかし詳細」があった方が学習効果が上がったという研究も中にはあるようなので、「そそのかし効果」が起こる場合と起きない場合の差についても、更なる研究が必要です。

教えるときに注意すべきこと

とはいえ、多くの場合で「そそのかし効果」が確認されてきたということは大注目に値します。

なぜなら、絵をリアルにしたり、写真にしたり、ビデオにしたりして、生徒の理解をサポートしようというのは、ごく自然な教える時の思いやりの一部だからです。

しかし、思いやりでやっていたことが実は、生徒の学びを妨げてしまうかもしれないのです。

よりリアルなものを使ったぐらいでは、学習の質が上がるというものではないのです。

それぞれの方法の学習効果を改めて、見つめ直して、注意深く試行錯誤していく姿勢が必要です。

VRだからいいわけではないのと同様、写真だから映像だからよりいいというわけではないのです。

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