• HOME
  • ブログ
  • 対談
  • 【教育改革実践家/元リクルート社フェロー藤原和博氏との対談ブログ①】〜日本教育の強みと弱み〜

【教育改革実践家/元リクルート社フェロー藤原和博氏との対談ブログ①】〜日本教育の強みと弱み〜

対談

今回のブログは、教育改革実践家/元リクルート社フェローの藤原和博(ふじはら・かずひろ)さんをお招きした対談形式でお届けします。

藤原さんは、東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。
2003年より都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務めた後、橋下大阪府知事の特別顧問や、奈良市立一条高校校長として活躍されます。

書籍は累計92冊158万部にのぼり、オンラインサロン朝礼だけの学校校長として、YouTubeで「仕事」と「人生」について語る人気講師でもあります。講演は累積1700回超。

今回は、日本の教育界に一石を投じ続け、数々の先進的な活動を展開される藤原さんから見た「日本の教育の強みと弱み」について伺います。

日本の教育の3つの強みとは?

星友啓(以下、星):藤原さんは日本で中学・高校の運営に携わり、実際に教育現場をたくさん見てこられたかと思いますが、その中で感じる「日本の教育の強みと弱み」はどのような部分だとお考えですか?

藤原和博(以下、藤原):まず強みの1つは「小学校教育での生活指導」です。日本の生活指導はとてもしっかりしており、「早くちゃんといい子になる教育」に特化していますよね。僕はそのベースが小学校で形作られていると考えています。
アジアの人たちが、日本の学校教育の生活指導を真似する動きもあるくらいです。

星:確かに小学生は自分達で掃除をし、給食は自分たちで配膳して最後まで食べることなどが当たり前とされています。これらの教育が「しっかりやる」ことのきっかけとなり、継続することでうまく効いていますよね。

藤原:はい。そして2つ目は「計算力」です。日本の計算力が高い要因としては、学校の他にも塾などの学べる場が充実していることが挙げられます。
また日本が伝統的にやっている、そろばん教育や公文式もですね。これらの影響もある。

3つ目は「情報処理能力」の高さです。これは「弱み」に繋がる部分でもありますが、日本の教育は「正解至上主義」なんです。つまり一つの決められた正解を早く正確に出すことを徹底して行うので、知識や情報の「処理力」が高い人が、日本には多いわけです。

それは、日本の国力や国民性にも大きく影響していると言えます。

例えば、諸外国と比較しても「標準以上にできる人」が多いと感じますし、電車や新幹線が、ここまで正確に発着する国はありません。
またレストランで違うものを注文しても、同じタイミングで出てきて、対応も早い。これは外国から来た人でも安心できますよね。

このような処理能力の高さにより、日本は「早くちゃんとやってくれる」部分がベースとしてあるので、安心感があり、きちんとした国柄であることが強みの1つだと思います。

ただし、情報処理能力に「偏りすぎていること」は課題だと、僕は考えています。

「9対1」から「7対3」へ

星:藤原さんはよく、情報処理力と対比して「情報編集力」の重要性について説かれていますが、この辺りについても詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

藤原:はい。「正解至上主義」である日本の教育では、情報処理力が鍛えられますが、現代のような変化が激しい混沌とした世界では、この「情報処理力」だけでは通用しません。

未知数のことや想定外のこと、二律背反の出来事が起こる世界に対処するためには、自分で仮説を立てて、他者からの仮説も集めて、その中から自分と周りが一番納得できる解、「納得できる仮説」だから「納得解」を導き出す必要があります。
つまり、正解ではなく納得解をクリエイトする「情報の編集力」が大事なんです。

星:藤原さんは、情報処理力を「ジグソーパズル型学力」、情報編集力は「レゴ型学力」と呼ばれていますよね。
ジグソーパズルには正解があって、決められた絵柄が完成するようにピースをはめていく。
一方、レゴは組み合わせ方によっては、同じピースでも全く違うものを作ることができると。


※藤原和博氏の講演資料より

藤原:そうですね。そして、この「ジグソーパズル型学力(情報処理力)とレゴ型学力(情報編集力)の割合」が非常に大切なんです。

処理力と編集力は、小学生のうちは9対1、中学生で7対3、高校生で5対5、大学生では情報編集力を100%身につけていくことが理想だと、僕は考えています。

星:最近OECDから発表された、日本のカリキュラムと世界規格であるOECD加盟国との比較では、国語・算数・理科・社会といった必修科目が日本では学習時間のほとんどを占めている一方で、他のOECD先進加盟国を見ると、必修科目の割合が50%以下なんですよね。
なので、日本がいかに「みんな同じものを詰め込んでいるか」ということの表れだと言えます。

実際、現状では小学校から大学まで、未だに処理力優位の教育を行っている学校がほとんどですよね。

藤原:はい、大学でさえも、情報処理力と情報編集力のバランスが、9対1くらいに感じますね。
僕の教育革命の目標としては、全体としてこれを7対3にすれば勝ちだと考えているんです。

なぜ「処理力」を7に留めているかというと、日本の「情報処理力」の教育が強みにもなっている側面があるからです。

星:先ほどお話しいただいた「情報処理力」の高さによる、一つの決められた正解を早く正確に出す力や、高い計算力、安心感のある国柄、といったことですね。

藤原:はい。この点は、僕は維持するべきだと思うので、処理力への比重を極端に下げることなく9のレベルから7程度に抑えて、編集力を1から3のレベルに上げることを推しています。

編集力を1から3に上げるだけでも、創造性や独創性が強化されて「日本全体の社会の柔らかさ」を取り戻せるのではないかと思います。

日本教育の弱みと、これからの課題

星:一方で「日本の教育の弱み」については、どうお考えでしょうか?

藤原:やはり弱みとしては、特に中学校・高校での教育が「発展途上国型(情報処理型)」であることです。

先ほど述べたように、小学生のうちは処理力と編集力を9対1くらいで、むしろ徹底的に知識を覚えさせることに比重を置いていいと思うのです。
ですが、中学校になっても小学校の延長で、処理力9割のバランスは変わらず、高校に入るとすぐに受験の準備(情報処理力のさらなる強化)になりがちですよね。

そんな、情報処理型の教育の弊害としては、特に受験準備が必要ない高校や、底辺校と呼ばれるような生活指導困難校にとっては、生徒たちの目標を定めることが非常に難しいことです。
またこの教育は、現代社会の実態とかけ離れていることも問題だと思います。

そのため僕は、社会生活に実際に役立つ実学を学べる高専(高等専門学校)や職業訓練などに、もっと力を入れていくべきだと考えています。

大学の数も、今の半分くらいにするべきですね。

星:確かに日本の大学では、定員割れの学校が50%近くにまで及んでいますよね。

藤原:はい。かつて団塊世代のジュニアたちのために、大学の定員を増やした経緯があり、当時の条例では、その世代が落ち着いたら定員を元に戻す約束だったはずなのに、結局そのままになっている。
なので、本来であれば大学入学の基準に満たない学力の生徒も入ってきてしまっている現状なんです。

また、日本の教育で一般的な「一斉授業」も、現状には適していないと感じます。

昔は勉強ができない子、普通の子、できる子たちの割合が、グラフで言うと釣鐘型(普通の子が多く分布)だったので、真ん中にいる「普通の子向け」に一斉授業をやれば、7割方の生徒が理解できました。

ですが、今は真ん中の「普通の子」層が減って、上位と下位の層が増えることで、グラフで言うと「フタコブラクダ型」になってきています。
なので、その状態で昔と同じように「普通の子向け」に一斉授業をしても意味がないわけです。

星:おっしゃる通りですね。
その他にも「日本の教育の弱み」と捉えられている部分はありますか?

藤原:あとは、今の日本の教育において、生徒が自ら発言しにくい環境になっている、という点です。

例えば、小学校では「静かにしなさい」と教育されて、中学では「自分の意見を言うな」と言われ、さらに高校の超進学校では大学の共通テストの選択問題で迷わないために「考えるな」とまで言われることもあるそうです。

このように発言する機会を失うことで、生徒は思考力、判断力、表現力を奪われていくから、
自分の意見を持てなくなるのは当然です。

学校教育のせいで、自分の意見を形成し、それを伝え、相手の行動を変えるという本当の意味でのコミュニケーションが疎外されてきていますので、僕はこのコミュニケーション力を取り戻すことが非常に重要だと考えています。

とにかく、どんな形でもいいから、発言する機会をたくさん作るようにと。
その1つの機会として、スマートフォンなどのICT機器を教育に活かさない手はありません。

星:今はスマホの持ち込みは許されても、授業中は電源を切りカバンに入れなくてはいけない学校が多いと聞きますね。

藤原:はい。電源を切って、ただカバンにしまっておくのは本当にもったいない。

今の生徒たちは、スマホのフリック入力でも2分間で200字程度打つことが普通にできます。
例えば、その力を活かして、どんどんスマホから発言してもらい、それを教室のスクリーンに表示させて、自分の意見を誰かに伝える体験を積ませてあげることもできるんですね。

また少し視点は変わりますが、僕は日本の子が学校で10年かけても英語ができない原因は、英語の学習法ではなくて、意見を言えないからだと考えています。

英語というのは、意見を言うための言語なので、意見がない子に英語という道具を与えても話せるようにはならない。

「自分の意見を誰かに言ってもいいんだ」という感覚を身に付けていく機会が圧倒的に少ないことが、今の日本の弱みの1つと言えます。

星:ありがとうございます。非常に勉強になりますし、いろいろと考えさせられます。

特に目からウロコだったのは、「情報処理力」と「情報編集力」のバランスについてです。

少し哲学的になりますが、現代のように混沌とした世界の中で起きた出来事から、その意味を見い出して、自分なりに理解していかなければならない時に、「自分を元の位置に戻してくれる視座」が必要です。

つまり、その社会や文化の中で、多くの人に共有されている「物事をどの位置から捉えるのか」という視座が、例えば西洋であれば「宗教」がそれに当たると思います。

対して日本は、宗教がいろいろな形で文化的には浸透しているけれど、生きていく中で「必ず戻れる視座」といった形では、なかなか浸透していません。

ですが、日本では教育での「反復練習」や、早くキチンとやってくれるなど「一定の基準以上のものが期待できる」といった強みの中から、日本人がその社会の意味を見いだせる。
つまり、自分を元の位置に戻してくれるような視座が、様々な文化の中でも「形式美」といった形で残っていると思います。

教育での反復や、形というものを尊重する考え方を完全になくしてしまうと、そんな日本の良さがなくなってしまうので、ある程度 割合を減らすとしても、残すところは残していこう。
そんな「中道的なあり方」について藤原さんからお話を伺い、いつも西洋の中で「もっともっと考える時間を」といった「情報編集力」に重きをおきがちな私としては、大変考えさせられました。

この度は、貴重なお話をありがとうございます。

次回は、これから世界に必要とされる人材を育てていくために、「日本の教育が今後どうあるべきか」という未来の視点でお話を伺っていきます。
次の記事閲覧はこちらから

オンラインサロン「学育ラボ」のメンバー募集中。

最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

皆様にお知らせがございます。

星校長ご本人から情報を受け取ることのできる、世界で唯一のオンラインサロン「学育ラボ」。

現在、70名もの方にご参加いただき、大盛況いただいており、募集を締め切りとしていましたが、追加募集を行うことが決定しました。

ご興味のある方は、以下より詳細をご確認ください。

■「学育ラボ」詳細はこちらから
https://community.camp-fire.jp/projects/view/221282

星友啓「学育ラボ」とは?

有料会員制のオンラインサロンです。こちらでは、幼児教育・語学教育・高等教育・ギフテッド教育・大人の学習をアメリカ最新の教育事情を知る日本人である星校長から学べる環境・コンテンツを提供します。

・星先生から最新の教育事情が知れる動画/音声を配信
・メンバーから集めた質問に星校長が動画/音声で回答
・星校長と行くシリコンバレー学育視察、学校見学
・星校長と交流できる懇親会
・日本未発表の本・論文・エッセイを翻訳して書評
・スタンフォード大学哲学博士(Ph.D)である星校長の哲学講義

など、星校長から毎月学び続けられる、そして、一緒に教育について考えることができる環境をご用意しました。

・講師・学校の先生・教育関係者
・高校・大学の受験を控えている方
・小さいお子さんの教育プランを考えている方
・日本の教育を変えていきたい方
・欧米の最新の教育方法・勉強法・トレンドを知りたい方
・社会人からの進学・留学を考えている方

ご興味のある方は、以下より詳細をご確認ください。

■「学育ラボ」詳細はこちらから
https://community.camp-fire.jp/projects/view/221282

関連記事一覧