【星友啓校長×松田悠介さん特別対談①】政府、データに頼り切らない、子どもたちの未来を切り開く教育のポイント
本日のブログより、NPO法人や、クリムゾン・グローバル・アカデミーなどの企業活動、政府の委員会などにも所属する『グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」』の著者である松田悠介さんとの対談を複数回にわたってお届けします。
※松田さんの活動については過去にブログ記事を更新しています。こちらもぜひご覧ください。
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第1回の今回は
・なぜ、日本の教育の方向性はなかなか定まらないのか
・特性と優先順位の見極めが、より良い教育の鍵
・確実なはずのエビデンスの危険性
についてお話しします。
今後活躍できる子どもたちを育てるために、政府は積極的に教育改革に取り組んでいます。
2020年度まで行われていた「大学入試センター試験」に代わって、2021年度には「大学入学共通テスト」が実施されるようになり、学習指導要領も改訂されました。
しかし、全てを政府任せにしないことが、より良い教育を実現するためのヒントになると2人は話します。
<星校長>
松田さんは政策などにも携わっていらっしゃいますが、日本の教育の方向性が定まらない理由は何だと思いますか?
日本の有能な教育者、賢者が真剣に議論している中で、集中型でない教育、主体性を育む教育など、大切にするものや内容について、何となくまとまらない印象があります。
<松田さん>
政府の性質を踏まえ、今後の教育をより良くするために大切なポイントは2点、
1、システムや文部科学省が全てを解決してくれると考えないこと
2、中央集権的に権限、予算が集約されていたものを分散し、現場をエンパワメントする組織体制作り
です。
現在行われている集中型の教育ではないものを行おうと声をあげている方もいます。
ただ、最終的には民主的に、皆の意見を統合していくのが政策決定のプロセス。色々な業界団体について考え、ギリギリのところで、文言や項目が入っていきます。
政策レベルでこの問題を解消するには、強靭なリーダーシップが必要です。そのためには、文部科学大臣などが1年の任期ではなく、3年など腰を据えてビジョンを定め、軸を通して政策決定をしていかないといけませんが、現状は実現されていません。
また、これまでの日本の政策決定はエビデンスベースで行われてきませんでした。言葉面だけを見ると良さそうな言葉がたくさん並んでいますが、予算は有限です。選択と集中が大切。優先順位の高いものに優先的に投資する必要があるのです。
日本は、優先順位を考えるのに必要なエビデンスを、政策を作る側も持っていません。説明責任が果たせないため、分散的に、包括的に政策を作ります。結果として、成果が出にくく、色が見えにくくなります。
解決策としては、子どもたち、地域の特性を踏まえ、うまく予算を采配して、優先順位、投資、意思決定などを行うことです。
ポイントは、トップのリーダーシップ、意思決定、コミットメント、現場への主権委譲です。
日本国内でも素晴らしいと思う学校、教育委員会などの基礎自治体などはあります。
工業化の時代は、文部科学省の上位下達的な教育施策が行われていました。今後は、いかに現場の力を引き出すことが重要になります。
アメリカのうまくいっているチャータースクール、自治体、フィンランドの教育などは参考になります。
フィンランドの教育は社会システムが違うため、日本の教育を今、フィンランドのようにするのは難しいですが、先生が主体的に考え、創意工夫をして、授業を編成していくことは、日本の教育システムが見習うべきことだと思います。
<星校長>
さらに言うと、カルチャー作り、システムが上に乗るためのカルチャーの土壌も重要だと思います。
システムが悪くても、カルチャーが良ければうまくいく、システムがいくら良くても、カルチャーの土壌が良くないとうまくいかないです。
今までの日本はエビデンスではない部分で政策決定がされてきたと思います。
エビデンスを見るかどうかはカルチャーによるかもしれないですね。「エビデンスがあっても、何となくうまくいっている」に重きを置いてしまうと、エビデンスがあっても、決定は異なります。
<松田さん>
うまくいくのは素晴らしいことです。僕も、エビデンスベースで全ての教育や施策の決定をしようとは思いません。
エビデンスを取らなければいけないものはしっかりと取って、改善する必要があります。
ただ、意思決定でエビデンスを用いる際は、注意が必要です。なぜならエビデンスは正確さが重視されますが、結局は過去からの積み上げがベースだからです。つまり、エビデンスから方針を導くと、過去ベースの教育施策が優先されがちです。新しいチャレンジはエビデンスがないため、新しいものに政策決定できなくなる危険性があるのです。
エビデンスベースでの決定も必要ですが、学校分野、基礎自治体、政策決定の権限を持っている人が時には、「この哲学に基づき、これが重要だと思うから、これを試してみよう」と言えることも大事だと思います。エビデンスの中で見えなくなる課題、エビデンスを取れる物だけで探すと、エビデンスが取れないものは見えなくなります。現場でバランスよく使い分けることが重要です。
<星校長>
私も同感です。「エビデンス中毒」になってしまうと、意思決定を取り違えてしまいますよね。結論ありきで、それにあったエビデンスばかりをみてしまって、合い対する視点を見逃してしまったり。
また、エビデンスを代入して方程式からあるべき正解を導き出すみたいな考えも、あまりなじまないですね。残された選択肢がどれもが同等にふさわしい中から決意と意思をもって決断しなければいけない時が来る。
エビデンスを追い求めているだけでは、タイムリーで必要な意思決定はできないんじゃないでしょうか。
エビデンスは本質的に、意思決定のための一つの道具でしかないですよね。
同じ現象に向かっても、問いの立て方、研究のアプローチにより、全く違う見解を導き出す研究者がいるように。
自分の欲しいエビデンスだけ持ってこようとしたらいくらでも得られます。
エビデンスを、気をつけながら、上手く使っていける決断者、リーダーでありたいですよね。
■松田悠介さんプロフィール
Crimson Education Japan の代表取締役社長、オンラインのインターナショナルスクール Crimson Global Academy の日本代表。大卒後、体育教師、千葉県市川市教育委員会 教育政策課分析官を経て、ハーバード教育大学院で修士号を取得。その後、学習支援を展開するLearning For All を設立。同社CEOを2016年6月に退任し、2018年6月にはスタンフォードビジネススクールで修士号を取得。
日経ビジネス「今年の主役100人」(2014)に選出。世界経済会議(ダボス会議) Global Shapers Community 選出。2017年には日本財団の国際フェローに選出。2019年より、文部科学省 中央教育審議会 委員を務める。
著書に「グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」(ダイヤモンド社)」。https://www.diamond.co.jp/book/9784478023358.html