【JETRO特別対談企画 ICU高校オンライン春休み講演会(後編)】

講演

【特別対談ブログ】World Matcha Inc CEO 「塚田英次郎」×グーグル プロダクトマネージャー 「田村芳明」×スタンフォード大学オンラインハイスクール校長 「星友啓」

〜これからの時代を生き抜くために必要な力とは?〜

前回のブログでは、JETROサンフランシスコ事務所長の山下隆也さんに企画いただき、母校の国際基督教大学高校にむけた講演から、World Matcha Inc. Co-founder & CEOの塚田英次郎さん、Googleプロダクトマネージャーの田村芳明さんに、日本とアメリカの起業文化の違い、お二人の仕事に対する考え方等、貴重なお話しを伺いました。

今回は、対談後半。高校生の講演会出席者からの質問にお答えする形で、日本の教育やこれからの時代を生き抜くためにどのような力をつけていくべきか、お話しています。

日本の教育を変えていくために必要なこと

星友啓(以下、星):まずは、制度を導入するのではなく、「緩和していくこと」が必要だと思います。

これまで他国の色々な教育を見てきて、日本は縛りが強すぎて、なかなか新しいことが実現できないように感じます。

もちろん、今の規制があるから健康的な形が出来ているという側面もありますが、これから世界が急速に変わっていくという前提でいうと、日本は他の国に比べて適応しづらい体制になっている。

だから、まずは新しい制度を導入することよりも、今ある制度を減らすという規制緩和をしていくべきだと思うのです。

田村芳明(以下、田村):自分もこの先根本的に学習が変わっていくと思います。

教育システムについて考えると、当然、クオリティの高い教育を広く学んでいくためには、効率性が求められてきます。

これまでは、学校の教室に生徒を集めていましたが、今はYouTubeで分かりやすく解説している人がいたり、わざわざ教室に出向かなくても学びを得ることができます。

だから、テクノロジーの進化によって、今までコストが高くてできなかったことが、どんどんできるようになっている。

みんなの人生が豊かになっていくために必要な情報が、常に提供できている状態がベストな教育の形です。

そう考えた時に、今まではメカニズムとして小、中、高、そして大学というシステムでしたが、この先情報が綺麗に整理されていけば、違う新しい形の教育、学習のシステムが生まれてくると思います。

そして、みんなの時間をもっと上手く使えるようになる。

だから、1日の中で学べる時間も増えるし、学ぶスピードも上がっていく。

そして、やりたいことも自由に出来て、時間を最大限に有効活用していけると思います。

塚田英次郎(以下、塚田):僕は、今は画一的なインプットしかできていないことが問題だと思っています。

インプットの質やダイバーシティ(多様性)がない状態であるということです。

だから、本物を早く知ることが、非常に重要です。

例えば、プロのやっていることを見て真似てみる、そしてその裏にどんな思いがあるのかを体感する。

こういう世の中だから、色々なやり方でそれは実現できます。

いかに早い段階でプロに触れられるかが重要になってくると思います。

「不確かなもの」の重要性

星:哲学的な話になってしまいますが、「学ぶこと」は「確かさを広げていく営み」というイメージがあるように思います。

確かさを拡大していけば、分からないことが多い状態よりも安心します。
こういう世界なんだな、あるいは、こういう世界だと思っていたけれど本当はそうじゃなかったのだと。

このように、教育が「確かさ」という安心を与えているのだとしたらそれも大切です。

しかし、知れば知るほど物事が「不確か」であるということがわかってきます。

その不確かさの脆弱なところに色々なものが成り立っていると考えることも重要です。

先日出版させていただいた、『スタンフォードが中高生に教えていること』にも書きましたが、今の教育はあまりにも「確かなもの」を求めすぎる方向性にあると感じます。

哲学など、答え合わせがないものをやっていく必要があると僕は思います。

田村:僕もその「不確かさ」がキーだと思っていて、少なからず僕自身や、周りの人たちはその不確かさをすごく楽しんでいると思います。

不確かさが、大好きで仕方ない。

何が言いたいかと言うと、本当に最先端にいくと、そのさきには誰もいません。
砂漠で迷子になったイメージです。

そこで、本当に子供のように、みたことがない「不確かさ」が面白くて、そのまま楽しみながら続けていたら、それが歴史に残る。そういう感覚だったりします。

星:今の、「確かさ」「不確かさ」みたいなところで言うと、昨今のテーマとして、「論破」があると思います。

やはり、誰かを論破することで「確かさ」を求めてしまっている。

ですが、「正しいもの」と「間違ってるもの」も、よくよく考えてみるとやはり不確かな場合が多い。

だから、議論は相手を論破して「正しさ」を求めるものではなく、一緒に話して共通理解を得たり、豊かなアイデアを出してお互いに納得する部分に持っていくものだと思っています。

「論理」というのは、相手を倒したり正しさを見せつけるためにあるものではなくて、唯一の共通部分であると考えるべきです。

それ以外の部分で、どのように共通理解を得たり、良いアイディアを生み出していくかが重要だと思うので、むしろ共通理解を深めていくための「道具」と考えるべきです。

みんなに言いたい部分としては、「確かさ」を求めないで欲しい。
「確かさ」の裏には必ず仕掛けがあって、実はそんなに確かなものはありません。

その、「不確かさを恐れないで欲しい」ということを今日の一つのメッセージとして送りたいです。

学生時代にやっておくべき「2つのこと」

田村:振り返ってこうした方がよかったと思うのは、2つあって、

まず一つ目は、自分の中に「絶対に自信のある何か」を見つけること。

音楽でも、スポーツでも、数学やプログラミングでもいいですが、自分の中で「これは誰にも負けない」、「世界でも負けない」という何かがあれば、それこそ、不確かな世界の中で、自分の中に確かさをもたらすことができます。

自分の中で「絶対にこれは熱中できる」ということを、一つわかっておいて、磨き続けることが重要です。

もう1つは、それを表現する力。それを人に伝えたりとか、分かってもらう力。

きちんと自分のことをわかってもらうための表現・エクスプレッションの技術は、高ければ高いほどチャンスが生まれてきます。

塚田:僕が前職でお世話になった上司から散々言われてきたのは「歴史」です。
いわゆる年号や名称の暗記ではなく、世界史をちゃんと理解すること。

結局、ローマの時代を含めて人間がやってきていることは今も変わらないし、そこにはたくさんのレッスンがあります。

そういうケーススタディを学んで、自分に生かしていくことは大切だと思います。

星:僕が、若い頃やっていて良かったなと思うのは、数学ですかね。

僕の強みとして、経営やバジェットを扱えるというのは大きいと思っています。

そこができていないとすぐに騙されてしまったり、経営の一番コアな部分を人に任せることになってしまう。

だから、お金周りの仕組み、数字の理解ができるようにしておくというのは重要です。

田村: 共感します。僕自身仕事する時に、「歴史を知る」ということと「数字を扱う」ことは実は同義で考えています。

何が言いたいかというと、前提としてイノベーションで失敗は当たり前で、重要なのは失敗からどれだけ情報をとれるかです。

だから、歴史を学び、過去の失敗をきちんと咀嚼して、そして数字として見解する力が必要です。

そこで非常に重要なのが、事実に対してどれだけ謙虚になれるか。

あらゆる失敗は現実を直視することでだいたい説明がつきます。

そこの心の部分、過去に起こったことに対して謙虚さをもって突き進んでいくということは、色々なところで使えるスキルだと思っています。

自分の可能性を広げるためにやっておいた方が良いこと

田村: 確かに、学歴や有名企業につくことだったり、オプショナリティーがあれば選択肢が増えてくるかと思います。

ただ、優秀な人であっても何をしようかな、どう生きていこうかと皆同じように悩みます。

だから、結局そこで一番大事なのは、自分がどういう風になりたいか、どんなことをしたいか、どんな世界を築きたいかということをイメージすること。

「自分に正直になる」という言葉に近くて、それを理解することは難しいですが、でも分かろうとするとその場所に近づいてくる。

僕自身は、その都度何となく、「こんなところにいなければならない」と思っていたら本当にここに流れ着いてしまったという感覚です。

ここに来たかったから来たのではなく、何となく自分はイノベーションのど真ん中にいつもいたいと思ってたからここに流れ着いて、たまたまシリコンバレーがそれだった。それがGoogleだった。

塚田: 結局はその瞬間瞬間を大切にするしかないと思っています。

その瞬間、もうそこで頑張るしかなくて、そこで真剣にやってみると何かがまた転がってくる。

僕も、若いころには、「抹茶で世界を取ろう!」なんて、すこしも思っていませんでしたが、サントリーに入社して、その後、たまたまスタンフォードに行って、結果、今、このCuzen Matcha事業に携わっています。

その瞬間瞬間を結構まじめに生きていたら、自然と、導かれていって、今、抹茶をやっているという感覚です。

スティーブ・ジョブスも言っていますが、意図的に点を先に繋いでいくのではなく、全て振り返った時に、過去の軌跡は、知らない間に繋がって今に至っている、ということです。

だから今を大切に、目の前のことを頑張ることが重要かなと思います。

【対談ゲストプロフィール】

田村芳明(たむら・よしあき)

グーグル プロダクトマネージャー
NTT研究所にて仮想化技術とOSの研究開発に従事した後、シニアソフトウェアエンジニアおよびプロダクトマネージャーとしてミドクラに参画。グーグルではKubernetes、gVisor、AIのプロダクトマネジメントを担当。2016年よりアメリカ西海岸マウンテンビュー本社勤務。
*本インタビューは個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

 

塚田英次郎(つかだ・えいじろう)


World Matcha Inc CEO
1998年東京大学経済学部卒業後サントリー入社。在職中の2006年スタンフォード大学経営大学院(MBA)修了。日米両国で21年間に渡り、新商品開発や新規事業開発に携わる。18年Stonemill Matchaを米サンフランシスコで立ち上げた後、退社。19年1月World Matcha Inc.を創業。20年10月、米国で抹茶マシン「Cuzen Matcha」を発売する。Time’s Best Inventions of 2020を受賞。

関連記事一覧