2019年12月22日 21:11
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【全米が注目!!】なぜ、高校生に「哲学」を教えなければならないか?

哲学
「オンライン教育×高校哲学」というユニークなカリキュラムの始まり

私の現職はスタンフォード・オンライン高校の校長ですが、私とオンライン高校との最初の接点は哲学でした。スタンフォードの博士課程で博士論文を終えて、最後の一年にできる何か面白いプロジェクトはないかと探していた時に、同期の哲学博士課程のバディーA氏から、高校生向けの哲学カリキュラムを作成して、オンラインで教えるプロジェクトに参加しないかと誘われました。

International Baccalaureate、IBカリキュラムなどに代表とされるように、ヨーロッパのいくつかの国では、哲学が高校や中学のカリキュラムの中核として組み込まれている場合もあります。

しかし、アメリカでは、日本と同様、哲学は大学に入って学ぶものとして位置づけられています。それだけに、通常の哲学のオーディエンスの幅を広げるのに一役かえるかもしれないという期待がありました。

また、当時はMOOC(Massive Open Online Courses)などによりオンライン教育の熱狂真っ只中だったので、高校の哲学とオンライン教育のコンビネーションは、博士課程の最後の年を過ごすプロジェクトとしてはとてもユニークで、魅力的に思えたのです。というわけで、即決でプロジェクトに参加しました。

スタンフォードオンライン高校1年生が学ぶ哲学

最初にカリキュラム作成に取り掛かったのはアメリカでいう10学年です。日本でいう高校1年で、立ち上げ中のスタンフォードのオンライン高校の必修哲学コースの一部になるものでした。

科学史からいくつかの場面を厳選して、それらを徹底的に詳細まで踏み込んでいくことにより、科学史自体はもちろんのこと科学哲学的な思考を養っていくということを主な目的に据えました。

一年間のクラスなので、ここでコースの全容を紹介するスペースはありませんが、ちょっとだけトピックの例をかいつまんで紹介いたしましょう。

• 古代ギリシャから地球が丸いことは立証されていた。どのような観察、理論、議論から地球が丸いことが古代から証明されてきたのか。
• 周期表はメンデレーエフが発明した?実は、何人も他に周期表を作成した科学者がいた。ではなぜ一人だけ囃し立てられるのか。
• 万有引力の法則、F=GmM/r2はどのように導きだされたのか。ニュートンは木から落ちるリンゴよりも、星空を見ていた。科学データの誤差、近似、モデリング。
• 光は波?マイケルソン・モーリーの実験の「失敗」。相対性理論とその他の同値な理論。科学仮説が反証された時に、どういう風に対処することができるのか。

科学理論はどのように立証されるものなのか。科学的思考や科学的判断とはどういうものなのか。科学のプロセスにはどのような社会学的な要因が存在するのか。

具体的な科学的議論や詳細な歴史的背景を分析することによって、生徒たちはそうした問いの答えを探求していく。一年目のプロジェクトとしては、自分ではそれなりに満足できるカリキュラムに仕上がりました。

あっという間に1年弱の期間がすぎて、10年生向けの科学哲学クラス を当時のオンライン環境の中で悪戦苦闘しながらも、成功させることができました。アメリカやその他海外の高校生を教えること、オンラインで授業を行うこと、さらに、学校の設立に伴う苦悩。様々な学びを得ました。

また、教育や学術的な側面にくわえて、学校スタートアップの中で学校の会計やビジネスモデル評価などの側面にも触れることができ、すでにそれなりにいい歳ながらも、学術ばたけを歩み始めていた私は、何だか少し大人になったような気がしました。

そんな形でビジネス的な側面がすんなり腑に落ちたのは、おそらく小さい頃から商店街の花屋で育ち、商人気質が適度に養われていたからなのではないかと、今になって回顧したりもします。

中学のプログラムへ拡大

しかし、一つ予定外なことが起こりました。最初は博士課程最後の一年の間だけのつもりだったのですが、気づいてみたらオンライン高校の立ち上げのプロジェクトにすっかり浸かりきってしまっていたのです。

研究職よりも、オンライン高校の立ち上げにその後も関わっていきたいと考えるようになっていました。博士号取得直前に、それまで考えていた研究職のポジションをあきらめ、もうすこしプロジェクトに踏み込んでみようとオンライン高校設立のプロジェクトに残ることにしました。

スタンフォード大学の大学レベルで論理学の教鞭をとりながら、オンライン高校でのカリキュラム作成を続けていきました。高校プロジェクト参加2年目は、アメリカでいう9学年、日本でいう中学3年の哲学のクラスの作成を担当しました。アメリカのハイスクールの最初の学年にあたります。

統計と生物学を同時に教えて、科学の発見、仮定、立証のプロセスはどのようになっているのかを生徒が体験しながら、科学的思考と科学哲学的な思考を養う。そうした目的に基づいて、生物博士の教員と共同でカリキュラムを作成していきました。

統計では、確率統計の基礎から、相関や回帰や確率分布などを含めて、 科学的応用のある実践的近代統計、生物学はフィールド生物学と遺伝子学を教えていきました。具体的な生物学の理論について、統計分析の手法を見せながら、科学的な実証の方法論を生徒たちに例示してきました。

その上で、そうした方法論の限界や他の科学的議論の方法や可能性を評価していくことで、科学的思考に加えて、科学の方法論を哲学的、ないし、批判的な観点から見つめていくといったコースの内容です。高校生に科学の切り口から哲学的な思考を紹介することが、非常に有益なことであるとますます確信を得ていきました。

4年間の哲学カリキュラムがスタンフォードオンライン高校卒業の必修科目

私がオンライン高校に関わり始めて、すでに10数年が経ちますが、現在オンライン高校では、高2と高3の哲学カリキュラムも含めて、4年間の哲学カリキュラムがオンライン高校のカリキュラムの根幹として、卒業の必修の一部になっています。

高2のコースでは科学から離れて、民主主義、自由、法の支配といった概念を哲学と政治論の基礎から学ぶコースになっています。社会や市民性の成り立ちにはどのような概念的背景があるのか。ホッブズ、ロック、ルソー、モンテスキュー、バーク、トクビル、デューイ、ミル、ロールズ、サンデル、などなど、主な政治哲学者や政治学思想家の文献にも幅広く触れます。

中3から高2までは、科学や政治学などの具体的な題材を通して、哲学に触れるのに対して、高3ではいよいよ哲学の問題を直接扱います。認知論、形而上学、倫理学、などなど、哲学の中心的なトピックや関連文献に親しむとともに、クリティカルシンキングのスキルを身につけることが目的になっています。古代ギリシャから始まり、中世、近代、さらには現代の哲学者を幅広く読み、様々な哲学の問題に取り組みます。

中3から高3の必修に加えて、最近では中1と中2の哲学カリキュラムも導入しました。ハイスクールに対して、ミドルスクールと呼ばれる学年です。

中1では西洋の哲学だけでなく、アジアや中近東などの幅広い哲学的な思考に触れます。中2では哲学的な視点から人間の本質に迫ります。まだ必修ではありませんが、立ち上げから哲学カリキュラムを支えてきた一人として、オンライン高校でのすべての学年をカバーする哲学カリキュラムが出来上がったことを非常に嬉しく思っています。

なぜ、高校生に「哲学」を教えなくてはいけないのか?

高校で哲学が必修になっているということが非常にユニークなため、おかげさまで全米の私立高校界の中でも注目をいただいてきました。

しかし、そうした物珍しさだけではなくて、哲学カリキュラムを多くの生徒に提供していく上で、高校であるが故に、哲学が必要であり、また、効果的であるということを、ますます確信してきました。

中等教育で、生徒たちは各科目で様々な知識に触れます。どのような知識でも必ず前提となる世界観や物事の枠組みがあり、そうした背景無くしては該当する理論や見識は成り立ちません。

一方で、現代社会においては、技術発展やグローバル化により、社会の仕組みや共通認識が、目まぐるしく変化しています。そうした中で、現在の自分の世界観や社会の枠組みから飛び出して、他の価値観や枠組みを理解したり、模索したりする力が必要とされているのではないでしょうか。

哲学の営みの中核は、物事の根本や前提を問い直して、考察することにあります。哲学の営みに親しむことで、そうした環境に適応し、新しいものの見方や枠組みを見出したり、急速に変化する社会の中で、揺るぎない自分の価値観を模索していく力を身に付けることができると考えます。

学習を進めて、専門を深めれば深めるほど、前提とされる価値観や枠組みに浸かりきってしまいがちです。それ故、中等教育において、より柔軟なクリティカルシンキングの力をつけていくことが必要とされているのです。

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