アメリカ教育のメジャートレンドを解剖!
アメリカ教育に従事したきっかけ
アメリカで高校の立ち上げに参加したり、ましてや、教育のキャリアを歩むということは、10年前の私には、全く想像もつきませんでした。
哲学、ことに論理学の研究にまっしぐらだった私は、当初、教育にあまり興味がありませんでした。
気楽にスタンフォードのオンライン高校のプロジェクトを手伝ってみるつもりが、気づいたら既にどっぷりと教育の魅力に浸り混んでいました。
アメリカの教育はダイナミックな転換期を迎えています。教育者として、また、学校運営者として、様々な視点から、アメリカの教育を見つめてきました。
ここでは、最近のアメリカ教育におけるメジャートピックを少しだけかいつまんで語ってみます。
EdTech: テクノロジーと新しい教育の形
教育テクノロジー、英語でEducation Technologyこれを略して、EdTech。
日本でも少しづつ浸透してきている言葉なのではないでしょうか。
私の在籍しているスタンフォード大学は、早くからコンピューターを教育に導入するプロジェクトを推進し、教育テクノロジーの先駆けの一端を担ってきました。同大学のある北カリフォルニアのシリコンバレー・ベイエリアでは、多くの企業がEdTechに取り組んできています。
EdTechの拡大は、アメリカ社会や教育のニーズに呼応してきました。
広がる格差や人種問題の中で、よりよい教育を多くの人々に広げる。アメリカの義務教育のレベルの底上げのため、教育資金やその他のリソースを効率的に活用する。社会に出て職を得た後も、学位の取得やスキルアップのトレーニングをよりアクセスしや吸い物にする。
こうした目的は他の先進国にも共通し、EdTechの躍進を後押ししてきました。
急激な発展を経て、EdTechは現在のアメリカ教育の最重要トピックの一つです。大学、高校、中学、小学校、または幼児教育に至るまで、様々な教育分野で、教育テクノロジーを有益な形で導入することが最重要課題となっています。
これまでの伝統的な教育の利点と問題点を理解した上で、テクノロジーの強みを生かす。新しい形の教育を作っていくことに官民一体となって取り組んでいます。
ホールチャイルド(Whole Child)
日本以上に、アメリカは学歴社会であるということは既に広く認識されているかもしれません。日本の受験戦争に見られるような精神疾患や自殺などの社会現象も、大きな問題となっています。
そうした問題をかかえるアメリカの教育は、本来の目的を達成しているのであろうか。受験や学問に偏重してしまった教育をどのように改善していくべきなのか。
ホールチャイルド(Whole Child)の概念は、そうした問題に対するレスポンスの一つです。
学問的な側面だけでなく、精神面、健康面、社会性、個性や自立心など、人間として重要な部分にも、しっかりと力点をおいて教育プログラムを構築すべき。
そもそも学習は人間の様々な側面に関係しており、学問的成長はそれ以外の側面の成長と共にある。生徒を一個人として包括的にサポートしていくことで、生徒の学問的な成長自体も後押しされる。こうしたホールチャイルドの考え方がアメリカ教育界で最注目されています。
例えば、社会性や感情の学習、Social Emotional Learningは、アメリカの教育学会等で最近で最もメインテーマとしてあげられることの多いトピックです。多くの学校で関連したプログラムの導入や取り組みが行われています。
Facebook創設者のMark Zukerbergとその妻であるPriscilla Chanの設立したChan Zuckerberg Initiativeはホールチャイルドを主眼において、科学的なリサーチに基づいた教育プログラムを推進しています。
学習の科学
どのような教育が良いかどうかということは評価が非常に難しい問題です。教育には様々な目的があり、目的によって良し悪しが変わってきます。また、明確な目的を定めたとしても、人間の成長や学習は長期的で、無数の要因が関わり合っています。社会科学の一分野としての教育学は、まさにそうした困難に取り組んできました。
そんな中、近年の脳科学や認知科学の発展を基礎に、人間の学習を科学的に研究する、学習の科学(Science of Learning)の分野が、教育界で大きな注目を集めてきました。
脳科学的に学習とはどのような現象なのか。どのような脳の機能がどのように発動した結果なのか。どういった要因が学びに影響するのか。どういった教育方法が良いのか。
これらの問いに関する脳科学的研究が大きな成果を上げ、教育学の分野にも活発に取り入れられるようになってきました。学習の科学は、ここ数十年で加速的に発展してきた、教育の主要トレンドの一つです。
早起きは一文の徳などと言いますが、8時や9時など朝の早い時間からの学習は脳科学的に見て効率が良くない。適度な運動は脳を活性化し、より高い学習効率につながる。コンピューターやTVの画面を見すぎると、様々な精神疾患の確率が高くなる。
こういったことが、続々と解明され、科学的に基礎づけられるようになってきました。学習の科学を発展させて、それから得られる知識に基づいて、教育をデザインしていく。そうした考え方が様々なアメリカの学校、教育機関に浸透してきています。
次世代社会人への教育
技術革新が社会を急速に変化させていく中、今後必要になってくる能力とは何なのか。
プログラミングスキルや語学力、コミュニケーション力やクリティカルシンキング(批判的思考)、リーダーシップや起業家精神、デザイン思考や文化能力(cultural competency)。
次世代の社会人が必要とするであろうスキルや知識、思考方法のための新しいカリキュラムやプログラムが、小学校から大学まで幅広い教育機関で導入されてきています。
さて、近い将来にAIが様々な仕事を請け負うことができるようになり、今ある多くの職業がなくなっていくという観測に注目が集まっていますが、AIが最近のような発展を見せる前も、先端テクノロジーは常に人間がこなすべき仕事を変化させてきました。
アメリカ社会においても、規則的な反復や単純作業を求める職業はテクノロジーの発展により減少し、その代りに高度な知識と技術を前提とする職業が増えてきました。それに合わせて、より多くの職業で学位を資格条件にするものが増えてきたのです。
一方で、アメリカの高等教育は、教育助成金が減少傾向にあり、各大学機関で学費が高騰してきました。年間400万の学費はざらで、ともすると安いほうです。大学学位を収めることが、非常に難しくなってきています。
つまり、職業が必要とする技術レベルと、社会全体として育成可能な人材のレベルのマッチングに大きな隔たりが出てきてしまったのです。
こうした中で、各企業が大学などの教育機関と提携し、効率的な形で企業内教育の機会を設けるという方向性が加速してきています。
有名な例がスターバックスとアリゾナ州立大学の協力事業です。スターバックスは従業員の学位取得プログラムを社内の福利厚生の一部とし設立しました。
アリゾナ州立大学との協力によるもので、スターバックスの従業員は希望すれば働きながらアリゾナ州立大学の学位をオンラインで取得することができます。学位取得後にスターバックスでキャリアアップしていくもよし、他の会社に転職するもよし。
スターバックスはこれを会社の魅力の一部としてより多くの有望な人材を獲得し、それでいて、社会のための人材育成にも貢献できるという大義を果たしています。
そういった新しい形で、社会人の企業内教育に注力する企業が増えてきています。同時に生涯学習の気風が盛り上がり、教育や学習が大学までの既存の教育の枠から飛び出して大きく拡大しつつあります。
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