「物語り上手」は数学が得意!?幼少期から理系の「才能」がわかる。
先日数学の能力は遺伝的な部分もあり、環境的な部分もあるということをブログで書きました。(詳細はこちらをクリックしてください。)
数学の能力が完全に遺伝でないにしても、もし、才能が遺伝的に数学に傾いていたとするならば、親として、適切な教育のサポートをしてあげたいと思うのは、ごく自然な感じ方だと思います。
ただ、幼少期にその子供のその後の適性を知るのは容易なことではありません。
ましてや、数学の才能となると、これまで様々な研究が重ねられてきましたが、なかなか適性を知るための鍵が見つかってこなかったようです。
しかし、少し前の論文になりますが、「数学の才能」に関する兆しに関するもので、非常に興味深いものを見つけました。今回のブログではそれをご紹介したいと思います。
絵本の語り方で、子供の「数学の才能」がわかる?
ウォータルー大学のダニエラ・オニールの2004年発表の論文で、以下のリサーチに基づいた知見が発表されました。
3−4歳の子供たちが、台詞や物語が文字で書かれていない、絵だけの本を見せられます。
目の前に人形が用意されており、それぞれの子供たちはその人形に向かって、絵だけの本に書いてある話を聞かせるように促されます。
子供たちは喜んで、人形への物語りを楽しみます。子供たちの物語りを、文章の文法的な複雑さなど、いくつかの指標で評価していきます。
その絵だけの本では、ある子供がペットのカエルをレストランに連れてきて、そのカエルがレストランの中を飛び回ることで、いろんな面白おかしい出来事ができるというストーリーになっています。
2年後の学力テストの結果・・
その「物語り」実験から2年後に子供たちはラボに呼び戻されます。
そこで、子供たちは様々な学力テストを受けます。数学の学力テストもその一部なのですが、オニール博士は「数学の学力結果」が、いくつかの「物語りの能力」と強く関連付けされていることに気づいたのです。
数学の能力と最も強く相関していたのが、「絵本の話の中の違った出来事を関連づける力」、「ある登場人物の行動からもう一人の登場人物の行動に視点を移動する力」、
また、「登場人物が違う時に、視点を変えて、それぞれの登場人物が感じていることや考えていることを考える力」、でした。
このことから、オニール博士は幼少期からの「物語りのトレーニング」は将来の「数学の能力」を向上させるのに有効なのではないかと、仮説立てしました。
「数学的思考」の根本を考えてみる
様々なものの関係性を理解して、表現することと、視点を変えて、変わった視点から物事を理解することは、確かに数学には欠かせない力のように思えます。
この図形とあの図形は相似の関係にあるとか、その変数よりあっちの変数の方が常に変化の度合いが高い、などなど、様々な数学的な対象がどのように関係しているかということは数学的理解の根本の一つです。
また、例えば、違う数字でも書いてある場所によって意味合いが違ってくるように、視点を変えて、数学的対象を理解する力も、非常に基礎的だと言えます。
10の位に書いてある5と1000の位に書いてある5では、同じ5の表記であっても全く意味合いが違います。同じ数字でも、書かれている場所によって、違う理解をしなくてはならないのです。
数学では非常に基礎的な思考の一部であると言っていいでしょう。
そうした目線で見ると、オニール教授の研究結果も納得が行きます。
数学的対象を扱い始める幼少期に、視点を変えたり関係性を理解することを身につけるのに、「物語り」が効果的かもしれないということも納得しにくくはありません。
「物語り」というと人文学的な印象があるものですが、その幼少期の能力が、成長後の数学の力に紐づいているかもしれない
という、とっても興味深いお話でした。