「遺伝か環境か」の議論はもはや時代遅れ?

研究

「私数学脳じゃないんで。」とか、似たような言葉は、時折耳にしませんでしょうか。

多くの場合、数学とか計算が苦手ということを少しお茶目めかした意味で使われているように思います。

しかし、時には、数学の才能がないので計算をやっても無駄だ、自分が計算ができないのはもともと生まれ持った才能が無かったのだから仕方ない、といった、諦めや謝罪の意味さえも込められていることがあります。

そもそも、数学の能力は遺伝によるものなのでしょうか?それとも後天的に得ることのできる能力なのでしょうか?

「数学は才能か努力か?」なんていう問いの立て方自体、そろそろやめた方が良い理由

人間の行動が生まれ持った遺伝によるものなのか、それとも後天的に環境の中で獲得したものなのか。

つまり、「遺伝か環境か」という議論が20世紀の科学の一つのトレンド的トピックとして語られていました。

Nature Versus Nurtureと名前までつけて呼ばれて、様々な議論を巻き起こしてきました。

しかし、20世紀も終わり、遺伝学や関連する分野が発展するにつれ、人間の行動はさることながら、もっとも遺伝的であると思えるような身体的特徴までも、遺伝と環境の両方の影響が色濃く出てくるということが、強く認識されるようになりました。

それとともに遺伝か環境かという二項対立的な問いの立て方自体が意味をなさなくなってきました。

どんなことも「遺伝」と「環境」の両方の要素があるので、どちらかと問うのがナンセンスになってしまうわけです。

どちらの方が平均的に強いかということはおそらく問えるにしても、どちらの影響だけかということは言えないというわけですね。

それどころか今では、遺伝と環境という分け方自体が、そんなにはっきりしたものではないという見方さえ出てきました。

さて、こうしたNature Versus Nurtureの観点から、今回のブログの題名を考えてみると、「才能」が遺伝的な能力を意味しており、「努力」が後天的な環境の一部であるとしてみると、数学は才能と努力の両方が影響しているということになるわけです。

遺伝的な数学的才能「数センス」についての研究

これまで、様々な研究がなされてきたようですが、このブログ記事では、数年前に発表されたアメリカの名門Johns Hopkins大学の心理学チームの「数センス」の研究についてご紹介しようと思います。

「数センス」とは専門的にはApproximate Number System(ANS)とよばれ、人間だけでなく、多くの動物も持っている能力のことを指し、ものの数の大方の見積もりをする能力のことを指します。

猟りや採集をする際に大体の数を認識したり、ぱっと見でどれくらいの人がいるか、など日常の行動に欠かせない判断をするのに欠かせない基礎的な能力です。

これまでも、成人においてANSと数学能力の関連は示されてきました。

しかし、それだけでは、成人がそれまで受けてきた数学教育や学習環境が高いANSおよび数学能力に寄与したと考えるのが自然かもしれません。

そうした理解の中、Johns Hopkins大学の心理学チームの研究が示したのは、幼児期の子供でもANSと数学の能力の関連が強く見られるということでした。

まだ本格的な数学教育を受ける前に、大体の数字の見積もりをする能力と、数学の学力が関連している。

他の動物に見られることに加えて、幼児を対象にした研究において、「数センス」が後天的なトレーニングにあまりよらない、より遺伝的な能力であったとして、それが数学の能力の差に出てくる。

「数センス」と数学の能力の関係は、数学の遺伝的特性をよく表しているとみることができます。

数学嫌いの「自己実現的」側面とは?

そうした遺伝的側面があるにしても、数学の能力は、他の人間の能力同様、努力の側面も大きくあります。

歳をとってからでも、トレーニングや環境次第で、脳の対応した部分が発達する脳のプラスティシティー(柔軟性)も現代の脳科学が明らかにしてきました。

数学の能力も決して例外ではありません。

それにもかかわらず、数学やその他の科目の能力が、後天的な「努力」ではどうにもならない、「才能」のように感じられてしまうのは、なぜでしょう。

例えば、コロラド大学のキンバル教授は2013年にインターネットメディアのQuartzに掲載した記事で、以下のような形で説明しています。

数学の能力にはもちろん遺伝的な側面があるわけだが、中学や高校のようなレベルでは、生徒がそれまでどのような準備をしてきたか、どれだけ良い環境で学習してきたかということが大きく影響してくる。

たとえ、遺伝的には同様な数学の能力であったとしても、家庭教師をつけて勉強してきた家庭の子供と、そうでなかった子供とでは、準備が違う。

そうした様々な環境から集まった生徒たちが、同じ数学の授業を受け、最初のテストを受ける。

すると、それまでの数学のトレーニングをよりよく受けてきた生徒が、良い点を取りがちで、それまでにそれほどトレーニングを受けて来なかった生徒たちの点数はそれより低くでがちだ。

そうした生徒同士の差はそんなに大きくないかもしれない。かたや95点で、もう一方は88点かもしれない。

しかし、95点でトップレベルの点数を取った生徒はやはり、数学が得意だということで、それを意識して、さらに数学の理解に磨きをかけてゆく。

その一方で、88点の生徒は、やはり才能には敵わないとして、他の分野で良い結果が出たものを追いかけたり、数学に費やす情熱や時間は、95点に比べて、少なくなってします。

そうしたことが続き、同様の数学能力をもった95点と88点が、そのうちに本当の数学得意と、本当の数学不得意に分かれていってしまう。

数学の苦手意識は、それ自体が自己実現的だというのです。

数学は苦手だ、才能がないという、フィックスマインドセット(グロースマインドセットのブログ記事に書きましたのでこちらをどうぞ。)に陥ってしまうと、その人を本当に数学苦手にしてしまう可能性があるというわけです。

【満員御礼】「学育ラボ」の募集は終了となりました。

先日よりご案内しておりました、星友啓校長のオンラインサロン「学育ラボ」の第3期生ですが、大盛況いただき満席となりました。

また、こちらの案内をご覧いただいたり、ご興味をお持ちくださった皆さまにも、心より御礼申し上げます。

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