【まえがき全文公開!】13歳からの哲学的思考
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『13歳からの哲学的思考』
はじめに
スタンフォードが中高生に教える一番大切なこと
この本を手に取っていただきありがとうございます。星友啓です。
スタンフォード大学が開校したオンラインの中高一貫校、スタンフォード大学・オンラインハイスクールの校長をしています。
2006年に創立したまだまだ若い学校ですが、急成長を遂げ、今ではアメリカの伝統的な名門校と肩を並べるようになりました。ここ8年連続で全米の進学校トップと評されており、教員や生徒たちの努力をこの上なく誇りに思っています。
「スタンフォード」「オンライン」「全米トップ」─この3つのキーワードだけでも、我が校がちょっとクセのあるユニークな学校であることを感じ取っていただけるかもしれません。
実際、他の進学校ではあり得ないようなユニークな特徴がいくつもあります。たとえば、成績順位や偏差値はなく、カリキュラムも時間割も生徒一人ひとり異なります。中学生でも大学レベルの授業が受けられ、心理カウンセラーや学習アドバイザーによる手厚いサポートも完備。生徒は毎年1000人規模で、全米はもちろん世界50か国以上から集まっています。
私たちは、創立当初から「大切だ」と思うことを惜しみなく学校のプログラムに取り入れてきました。
そんな具合にとてもユニークな我が校ですが、卒業生やその保護者が「一番ありがたかった」と語るのは、今挙げた特徴のどれでもありません。
スタンフォードをはじめ、ハーバード大学や他のIvyリーグの名門大学への進学、さらには世界中の大学院での研究、スタートアップ起業、GoogleなどのIT企業での活躍──次世代のリーダーとなった卒業生たちが、我が校で「最も学んでよかった」と言ってくれるのは、本書のテーマである「哲学」なのです。
哲学は全員必修のグローバルスキル
今私たちが生きているのは、誰もが生涯学び続けなくてはいけない時代。学生も社会人も、さまざまな分野に触れ、幅広い知識やスキルを習得することが期待されています。
しかし、現実の学びの場では、既にある知識や決まった考え方をなぞるようなトレーニングが中心になりがちです。そして、もちろんそれは悪いことではなく、必要なことでもあります。
けれども、変化が激しく予測不可能な現代社会では、「みんなが既に知っているゲームを上手にプレーする力」だけでは不十分です。
現在のルールを正しくあてはめるだけの仕事は、すでにテクノロジーに置き換えられつつあります。そして、これまで当たり前だった考え方や価値観が目まぐるしく変化しています。
そんな未来を生き抜くためには、「新しいゲームを生み出す力」─つまり「ゲームチェンジの力」が求められています。
そして、そんな未来を生き抜く力を育むのに最も効果的なのが、「哲学」を学ぶことなのです。
その意味でも、哲学は若者から大人まで、誰もが身につけておくべきグローバルスキルなのです。
だから我が校、スタンフォード大学・オンラインハイスクールでは、哲学を唯一の「必修科目」として位置づけています。
もちろん、「私が哲学博士だから」という校長のエゴでそうしたわけではありません!哲学を学ぶのに、大学生や社会人になるまで待っている必要はないのです。
普段は考えない疑問をあえて問い直して新たな視点に至る
なるほど、哲学が大切なことはわかる。でも、そもそも「哲学」って、いったい何なんだ?
───シンプルにお答えしましょう。
哲学の本質は、普段は考えないような「当たり前」「ばかばかしい」「無意味だ」と思われがちな疑問を、あえて問い直して、新たな視点にたどり着くことです。
たとえば、突然誰かが「目の前のものって、本当にあるのかな?」と尋ねてきたら、どう思いますか?
「ちょっと疲れてるのかな?」「え、もしかして変な人?」などと感じてしまうかもしれません。なぜなら、「目の前のものが存在する」というのは、普段あまりにも「当たり前」だからです。その「当たり前」を改めて問い直すことは、「ばかばかしい」し「無意味だ」と感じられることもあります。
しかし、そうした根本的な問いに立ち返って考えてみることで、私たちは新しい理解や気づきにたどり着くことができるのです。
実際、「目の前のものは本当にあるのか?」という問いは、私たちの世界の捉え方の根本について、さまざまな重要な視点を生み出してきました(この点については、本書の中でも他の哲学的トピックとともに詳しく解説していきます)。
哲学は普段から役立つ脳と心のストレッチ
一般に哲学と聞くと、「難しそう」「日常とは無縁」「とっつきにくい」といったイメージがあるかもしれません。
けれども、「普段は考えないような疑問をあえて問い直して、新たな視点に至る」という哲学の考え方は、私たちの日常にも大いに役立ちます。
学校でのトラブルに悩んでいるとき、どうすれば前向きな考え方に変えられるだろう? テストで解けない問題にぶつかったとき、どこから新しい発想を見つければいい? 仕事で行き詰まり、アイデアが浮かばないとき、どうすれば壁を突破できる?
哲学は、何かに行き詰まったり、難しい問題に直面したりしたとき、いったん立ち止まって状況を整理し、柔軟な考えで新たな突破口を見つけるヒントをくれます。
「当たり前」を問い直すことで、自分の脳と心をストレッチし、勉強や仕事、そして人生そのものに活かすことができるのです。
哲学の主要分野をいっきにカバー
本書の目的は、読者の皆さんに「哲学的に考えるきっかけ」をつかんでもらうことです。やる気さえあれば、誰でもすぐに始められます。
中学生にも読んでもらえるように、できる限り学術的な表現や難解な言い回しは避け、わかりやすく書いています。
一方で、哲学の内容はしっかり詰め込んでいます。古代・近代の哲学史の考え方から、現代哲学の人気トピックまで、スタンフォード大学・オンラインハイスクールで教えている教材やスタンフォード大学で私が担当した講義からも厳選して、解説していきます。
また、「形而上学」「認識論」「倫理学」「論理学」「美学」「心の哲学」「政治哲学」など、できるだけ多くの哲学のメジャーな分野から、中心となるテーマを紹介できるよう工夫しました。
これらの哲学分野の名前は、字面だけ見れば、ちょっと尻込みしてしまうくらい難しそうに見えるかもしれませんが、本書ではそれらのテーマを、わかりやすく、具体例を示しながら説明しています。
各章は読み切り形式になっており、目次を見て興味のあるトピックから自由に読み進められます。他の章が引き合いに出されることもありますが、対応する章を先に読む必要はありません。
また、それぞれの章末には「まとめ」セクションを設けており、キーワードや「もっと考えたい人への宿題」も載せています。皆さんの目的に応じて自由に活用してください。
以下に、本書の使い方の一例を挙げておきましょう。
・自分で哲学を始めたい中高生や大学生、社会人
目次から気になるトピックを選び、自分のペースでゆっくりと哲学を味わいながら読み進めましょう。たとえば1日1章。読み終えたあとに内容を振り返り、さらに考えてみるのもおすすめです。
・学校で哲学を教えたい先生方
生徒さんのレベルや関心に応じて、章ごとにトピックを選んで授業で使っていただけます。章末の宿題メッセージを活用して、グループディスカッションやリサーチ課題にも発展できます。
・親子で学びたいご家庭
中高生のお子さんであれば、同じ章を一緒に読んで、それぞれのセクションについて理解したことをシェアしていきましょう。「この部分、どういう意味だった?」「ちょっと難しかったけどわかった?」「ここ教えてくれる?」など、お子さんに問いかけて会話を弾ませていきましょう。
本書を通じて、少しでも多くの方に哲学の魅力を体感していただければ幸いです!
星 友啓
目次
はじめに
スタンフォードが中高生に教える一番大切なこと
Chapter1 AI は何を考えている?
───ロボットは心を持てるのか
- AIと対話して考えてみる
- コンピューターは考えている?
- チューリング・テスト
- 他人が心を持つということ
- 機能主義と心の動き
- 中国語の部屋
- まとめ
- もっと考えたい人への宿題
Chapter2 “心”って、どこにあるんだろう?
───科学で説明できない私だけの秘密
- 科学者メアリーの思考実験
- 心の世界と物の世界
- 物だけある? 心だけある? それとも両方ある?
- メアリーは新しい発見をするのか?
- クオリアと脳科学の限界
- コウモリの気持ちはわからない?
- まとめ
- もっと考えたい人への宿題
Chapter3 科学を超えた本当の世界の仕組みって?
───世界の見え方がひっくり返るとき
- コペルニクスとジェットコースター
- 世界の本質とそれをどう知り得るのか
- いくら疑ってもすべてを疑うことはできない
- 考えたって始まらない、経験からしか学べない
- 確実に存在するのは経験だけ
- まとめ
- もっと考えたい人への宿題
Chapter4 なぜそれが必ず起こると言えるの?
───原因と結果の哲学
- わらしべ長者には誰でもなれるのか?
- 原因と結果の関係
- 印象と観念が認識のベースになる
- 原因と結果は心の習慣
- 心の習慣では科学ができないのでは?
- 因果関係なくして世界は認識できない
- まとめ
- もっと考えたい人への宿題
Chapter5 その責任は誰にあるの?
───「知らなかった」ではすまされない責任の倫理学
- 友達がケガをしたとき、誰の責任?
- 自分の意思でやったなら、やっぱり責任がある
- 知らない場合には免責になる?
- 知らなかったではすまない
- 売上が最優先のビジネスパーソンに責任は?
- 郷に入っては郷に従え
- まとめ
- もっと考えたい人への宿題
Chapter6 それ、本当に自分で決めたことなの?
───責任と自由意志の関係
- 脳科学者ブラック
- 責任と自由意志
- 科学は自由意志を不可能にする
- 自分の意思もいらない?
- 他の可能性がなくても倫理的責任があり得る
- 未来志向の責任論
- 他人の行動に対する自然なリアクション
- まとめ
- もっと考えたい人への宿題
Chapter7 生まれたときから、将来の仕事は決まっていた?
───「自分で決めた」は本当なのか
- リベットの実験
- 他の選択肢が可能かどうか
- 科学の世界に自由意志はない?
- 論理的に可能な3つの立場
- リベットの実験と懐疑論
- 自由意志がなくても困らない?
- 決定論と両立する自由意志
- 量子論と自由意志の可能性
- まとめ
- もっと考えたい人への宿題
Chapter8 なぜルールを守らなきゃいけないの?
───ソクラテスが教える社会との約束
- ソクラテスが逃げなかった理由
- 政治的責務とは?
- 「政治的責務」と似た言葉に注意
- 同意したから従うべき
- みんなが最大限幸せになるように
- フェアプレーの責務
- 共同体の責務
- まとめ
- もっと考えたい人への宿題
Chapter9 言いたいことを言って何が悪いの?
───「表現の自由」はどこまで許されるのか
- 権利は何のために、なぜ守られるのか?
- 権利ってそもそも何?
- 自分や他の人の活動をコントロールする
- 自分の利益を追求する
- 意思理論 vs 利益理論
- 権利は幸福をもたらすから保障されている
- 権利は人間の本質を尊重するべき義務から生まれる
- まとめ
- もっと考えたい人への宿題
Chapter10 それ、論破になってませんから!
───ズルい議論に負けない3つの思考法
- 論理的な思考はどれ?
- 前提、結論、推論
- 推論を評価する2つのアプローチ
- 3大メジャー論法
- これまでの経験から推論する
- 観察や実験から仮説を立てる
- みんなが間違えやすい論法「誤謬」
- 論理的な推論の正しい形と間違った形
- まとめ
- もっと考えたい人への宿題
Chapter11 “科学こそ絶対”ではない!?
───科学の哲学入門
- アインシュタインの一般相対性理論の検証実験
- 科学と占いはどう違う?
- 実験やデータから規則性を見つける
- 仮説と論理で検証する
- 仮説はどこから来るのか?
- 検証ができるから科学
- 否定することが可能だから科学
- まとめ
- もっと考えたい人への宿題
Chapter12 なんで便器が芸術なの?
───美の正体を哲学する
- 芸術作品の鑑賞テスト
- 芸術とそうでないもの
- 美しいは頭で考えるのか?心で感じるのか?
- 「美しい!」のパラドックス
- すぐれた批評家たちの意見に影響される
- 「美的体験」は作品自体の目的から得られる
- 何かを表現するということ
- 形式主義とは何か
- まとめ
- もっと考えたい人への宿題
おわりに
参考文献
人名索引

