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【「第1章まで」を公開中!!】脳を活かすスマホ術

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はじめに

スマホをポジティブに捉えれば自分が変わる

「スマホが脳を壊す」「スマホで集中力低下」「スマホはうつや不安症を引き起こす」
スマホへの逆風は止まるところを知りません。
しかし、はっきり申し上げましょう。そうしたスマホのネガティブキャンペーンは、これまでのスマホ研究の集積を度外視する、偏った見方です。
スマホを恐れるがあまり、科学的にも確認された数々の効果の恩恵にあずからないのは、非常にもったいない。それでは、絶対に、スマホ時代、AI時代を生き抜けません。
最新の心理学や、脳科学をベースに、スマホの良し悪しをじっくりと見極める。その上で、スマホを科学的に安全な形で使って、「脳のゴールデンタイム」を作り出すお手伝いをさせていただく。それが本書の目的です。

こんにちは、星友啓です。
私はアメリカのスタンフォード大学が運営するオンラインハイスクールの校長を務めています。世界40数カ国から、約900人の生徒が学ぶ中高一貫校です。開校は2006年。今年で18年目になります。
現在ではスタンフォード大学も含む全米の一流大学に数多くの合格者を送り込む、全米屈指の中高一貫校として知られています。
開校した17年前には、オンライン教育、しかも、中高生に向けてなんてばかげていると散々言われてしまいました。しかし、今では、オンラインにもかかわらず、全米トップの学校としても認めていただけるようになり、本当に誇りに思っています。

これは日本でも同様ですが、アメリカでも子どものスマートフォン(スマホ)の所持率はどんどん上がっています。
小学生でもおおよそ3割から4割が持っていて、中学生になると7割から8割、そして高校に入ると9割の子どもたちがスマホを持っています。
Youtubeを見たり、ゲームをしたり、という使い方もありますが、学校で、タブ
レットのアプリベースで、リーディングの宿題が出たりもします。
また、親も学校の情報をタブレットやスマホから入手して、自分たちでしっかり管理をなければいけないこともしばしば。そうでなければ、子どもの学習段階がわからなくなってしまう仕組みになっていたりします。
ですから、遊びもありますが、勉強の部分でもスマホやタブレットのお世話になっている。公私両面で、バランス良く使うツールになっているのです。

そしてこれは、大人の世界でも同様。今や誰もが実感しているように、すでに、スマホが良い悪いの二元論には意味がなく、日常の中にいかにバランス良く溶け込ませていくかが課題になっています。
実際、スマホにはポジティブ面がたくさんあることが科学的に示されてきており、極端な場合に起こるネガティブな効果だけを恐れて、むやみに遠ざけるのはもったいないどころか現実的ではありません。
それだけに、近年、スマホに対する一方的なネガティブキャンペーンをやめて、どのような使用がポジティブで、どのような使用がネガティブなのか、見極めていこうという姿勢が世界中で広がりつつあります。
スマホをポジティブに活用する。そのことで自分の頭も心も良い方向へ導くことができる。
最近では、脳科学的にもお墨付きのスマホ活用法が明らかになってきています。
本書ではそんなスマホでできる「脳に良い習慣」をたっぷりと詳述していきましょう。
主に以下の4つをご紹介します。

1「インプット」:スマホだからこそできる超速、超効果的インプット
2「エンゲージメント」:集中力やマインドセット、勉強にも役立つ
3「ウェルビーイング」:SNSで周りとつながりハッピーになる
4「モチベーション」:スマホをやり過ぎず持続可能なモチベーション

これらのトピックを最新研究の結果をベースにわかりやすく説明していきますが、読みやすさを重視して、参考文献は脚注ではなく、巻末に章ごとに分けてまとめてあります。
各トピックをより詳しく研究したり、エビデンスを直接見たい方はそちらもご参考くだ
さい。

世界で、スマホはどのように捉えられているのか。
なぜ、スマホが、脳に良い習慣を与えうるのか。
そして、どのようにしてスマホを味方につけて「脳のゴールデンタイム」を作ることができるのか。
アメリカの最前線から、詳しく、熱く語っていきたいと思います!

目次
『脳を活かすスマホ術』

序章:天国か? 地獄か? スマホの現在地
・問題視されるスマホの影響
・エコーチェンバーが起きやすいスマホ
・ウェルビーイングをもたらすスマホ
・パッシブではなくアクティブなツール
・スマホのネガティブキャンペーンの現在
・「食べ物は体に悪い」?
・すべてがスマホのせいなのか
・スマホでできる脳を活かす習慣

第1章:知られざるスマホのパフォーマンス
・「スマホは怖い」は本当か
・スマホのメンタル影響をメタ分析すれば
・スマホで記憶力アップ
・肥満対策や注意力アップにもつながる
・知られていない検索のポジティブ面
・条件省きの「ネガティブ洗脳」
・一時的な話の極度な一般化
・スマホ特有の悪影響にあらず
・SNSが孤独を呼ぶ?孤独がSNSを呼ぶ?
・人間はネガティブな情報に引かれる
・バッシングばかりの開校当時
・スタンフォードの「スクリーンノム」研究誕生
・「あなたは、スマホで何をしていますか」

第2章:スマホ動画は「インプット」の無双の鍵
・スマホは「読む」「聞く」「見る」の最強ツール
・「読む」 vs. 「聞く」、インプットはどちらが効果的?
・速読の達人が本当にしていること
・やってはいけない「速読」のコツ
・人間の脳は読むのが苦手
・ちょうどいい早送りの速度
・マルチメディア時代のインプットとは
・動画の習慣で避けるべきこと
・リアルすぎる映像は逆効果
・「スクショ」や「GPT要約」には要注意
・読むインプットに効果的な手書きメモ
・聞くインプットに効果的なタイピング
・「リトリーバル」という万能策
・超効果的な三つの動画習慣

第3章:スマホゲームは「エンゲージメント」の最強ツール
・アクションゲームはやはりすごい
・「21 世紀スキル」アップの人気ゲーム
・「アングリーバード」の学習効果
・ゲームと学びの垣根が崩れてきた
・子どもにはYoutubeよりもスマホゲームを
・「遊び」 vs. 「ゲーム」はもう古い
・競い合いには要注意
・ゲームが育てる成長マインドセット
・「あなたの能力は上がるんだよ」・ボードゲームか? スマホゲームか?
・ゲームのネガキャンは終わりつつある
・私はゲームにどハマりしていた
・「52 分やって 17 分休憩」のススメ

第4章:スマホのSNSで本物の「ウェルビーイング」を手に入れる
・SNSで発信するか、受信するか
・ポジティブもネガティブも循環する
・ありのままの自分をありがたく思うこと
・不特定多数より仲間への発信
・内発的なハマりと、外発的なハマりの大きな違い
・やっかいな現代の「やる気」事情
・心の三大欲求を満たしてくれるSNS
・SNSの科学的ハピネス習慣
・「感謝の科学」でできるスマホメンタル術

第5章:持続可能なスマホの「モチベーション」
・おじいちゃんもおばあちゃんもスマホ
・「スマホ依存」には医学的定義がない
・アメリカでは「PSU」という呼び名も
・「ゲーム依存」「スマホ依存」の9条件
・幼児期のスマホは厳重注意
・認知能力を下げるスクリーンタイム
・「スマホ禁止」は禁止!
・テクノロジーと距離を取る三つの方法
・脳科学から見たスマホ習慣の変え方
・スマホが満たす「心の三大欲求」
・スマホ時間の理想的な減らし方

おわりに

序章
天国か? 地獄か? スマホの現在地

問題視されるスマホの影響

スマートフォンの使用に関して、世界中でさまざまな調査が行われています。
例えば、アメリカの調査機関「ピュー研究所(Pew Research Center)」などの調査によると、71 %の大人が「子どもの健康への影響が心配だ」と語っており、 60 %が医師や専門家からなんらかのアドバイスを受けたりしています。
アメリカでは、0歳から2歳で 57 %の子どもがYouTubeを見ていて、3〜4歳では 81 %、5〜 11 歳ではなんと 90 %。
実に、 60 %の子どもが5歳前にスマホを使用しており、半分以上の子どもが9〜 10 歳の時点でスマホを所持しています。
「子育ては大変になったか」と尋ねると、 66 %の親が「テクノロジーのせいで大変になった」と答えています。

18 歳以上の大人は、世界平均で1日約4時間半、スマホを使っています。日本は、世界に比べて少し多めの約4・8時間です。

大人に聞いてみると、 42 %が「スマホをやり過ぎている」と感じており、「スマホがなければもっと自分のパフォーマンスは上がる」は 30 %います。
仕事や勉強の効率だけでなく、スマホのせいで詐欺に遭ったり、トラブルに巻き込まれたり、自分のやる気やムードを下げてしまったりもします。
だから、スマホをやらない方がいいと多くの人が思っています。子どもたちへの心配だけでなく、健康面や仕事面への影響など、大人自身も心配しているのです。

エコーチェンバーが起きやすいスマホ

大人も子どもも、このネガティブなスマホの影響に、なんとか対策はないものか、と考えています。
そしてその解決策をスマホで検索したりもする始末……。
もとより、いろいろな情報を広く手に入れようと、スマホでインターネットにアクセスしている人は少なくありません。

ところが、ご存じのように、ここで一つ「落とし穴」があります。
自分では、自由にアクセスできるインターネットの上で、偏りのない情報を手に入れようとしているつもりでも、スマホのニュースアプリや検索エンジン、ネット広告のアルゴ リズムは、自分がよく見るジャンルの情報ほど目立たせるようにできている。
そうしたネット環境の中で、自分と似た思考の人々が集まってくる場に身を置くと、自分の意見や思想が肯定され続け、それらがまるで正解であるかのように勘違いしてしまう。
いわば、同じ意見が部屋の中でエコーのように鳴り響き続け、そのことでその意見がより確からしく確信してしまう。
そんな現象を、「エコーチェンバー」と言いますが、まさにこれが起こりやすいのが、スマホです。
価値観の似た意見ばかりに触れたり、同じ考えの人たち同士がつながり、交流・共感し合うことで、特定の意見や思想は、ますます支持され増幅していく。
そしてもちろん、「スマホは良くない」と思うと、それをより肯定してくれる情報に次 から次へと出会ってしまう。それが、スマホの「悪者イメージ」が広がる一つのメカニズムになっています。

ウェルビーイングをもたらすスマホ

一方で今、「良い使い方をすれば、スマホの良い影響が出てくる」という認識も、確実 に広がり始めてきています。
先述のピュー研究所の調査によれば、子どもへの影響が懸念される中でも、大多数の人 が「スマホは社会に有益である」と回答しています。
そうした認識の背景には、仕事やコミュニケーションのツールとして、スマホが経済活 動に必須になっていることがあるでしょう。
しかし、それだけではありません。本書で説明していくように、うまい使い方をすることで、スマホが集中力を高めたり、学習効率を上げたり、認知能力の向上につながること がわかってきました。
さらに、スマホは私たちのメンタルにも良い影響を与えうることも実証されてきました。
つまり、スマホが私たちの頭にも心にも、私たちのウェルビーイング全体に、とても効 果的なツールでありうることがわかってきたのです。

しかし、何でも、ものは使いよう。スマホのそうしたポジティブ効果は、適切な使い方 や目的を踏まえておかなければ得られません。
例えば、スマホで人と人とのつながりというと、世界中のこれまで出会うはずもなく、 知りもしなかった人たちと幅広くつながることで、心のウェルビーイング(幸福な状態) を手に入れるというイメージを持つ人も少なくありません。
しかし、実はそれがまったく逆で、そうしたスマホの使用はストレスや不安につながる傾向があることがわかってきています。
むしろ、もともとつながっている人たちと、さらにコミュニケーションを強めたり、維持したりすることに、スマホはとても有効なのです。
実際に、スマホがすでにある友達のサークルや恋人同士の人間関係を深めてくれるような状況は想像に難くないでしょう。
つまり、スマホは使いようによっては悪影響もあるかもしれないが、しっかりと良し悪しを踏まえて使えば、心のウェルビーイングをもたらしてくれる。
むやみやたらに使ってスマホのネガティブの餌え食じきにならないよう、科学的にも裏付けられた効果的な使用法を、本書でたっぷり学んでいただきましょう。

パッシブではなくアクティブなツール

私は2016年より、スタンフォード・オンラインハイスクールという、中高一貫校の校長を務めています。
アップルやグーグル、フェイスブックなど多くの有名IT企業の本拠地が軒を連ねるシリコンバレーのベイエリアの真ん中にあるのが、スタンフォード大学です。
ここで、最先端の教育とテクノロジーと向き合いながら、世界各国の才能あふれる子どもたちの学びをオンラインでサポートするのが、私の仕事です。
スタンフォード・オンラインハイスクールができたのは、2006年。設立から十数年 で、アメリカで注目される学校ランキング「Niche」において、全米進学校(College Prep Schools)で全米ナンバーワンになりました。
その他のメジャーな学校ランキングで も、全米トップ校として選出されています。
上位の伝統校がひしめく中、オンラインの学校が全米トップ校として認知されているのは非常にありがたく、校長として誇りに思っています。
この高評価には、もちろん卒業生たちの頑張りが大きく影響しています。スタンフォー ド大学はもちろん、ハーバード、プリンストンなど、名門大学への合格実績はアメリカでトップレベルになっています。

ご想像の通り、スタンフォード・オンラインハイスクールに所属する生徒は、オンライ ンの画面を通して学んでいます。
そのため、オンラインのハイスクールなんて大丈夫なのか、と心配される親御さんも、 もちろんいらっしゃる。
授業にちゃんと集中できるのか? ゲームやネットで気が散ってしまうのではないか?
コンピュータなどの画面を見ている時間、いわゆる「スクリーンタイム」が長くなってしまうと、子どもの認知能力や心の成長に悪影響があるのではないか?
こうした心配はスマホやタブレット、テレビなどについてもごく自然なもので、子育て 中の親であれば誰もが気になってしまうでしょう。

しかし、スクリーンタイムに関しては、これまでさまざまな研究の長い蓄積があり、スクリーンを見るか見ないかではなく、スクリーンをどのように使用するかがになってい ることがわかっています。
例えば、テレビを惰性で見ていると、番組の内容どころか、何の番組を見ていたかさえ わからなくなっていたりすることがあります。
これは、スクリーンの「パッシブ(受動的)」な使用の最たるもの。テレビからの発信を、ただ単にボーッと見つめている受け身なテレビの見方です。
それに対して、スマホやiPadでメールやチャットをしたり、アプリを楽しんだりする時は、画面からのインプットに対して何もせずに受け身でいるのではなくて、タッチパ ネルを通して自分の意思で何かを打ち込んだり、考えながら操作したりしています。
つまり、スマホやタブレットは、積極的に「エンゲージ(参加、集中)」することができて、「アクティブ(能動的)」な情報のやり取りが可能になるツールなのです。
そして、いかに「エンゲージメント」が高いかが、仕事や勉強のパフォーマンスのになります。
つまり、スクリーンやスマホ自体の良い悪いではなく、どんな使い方をするかが勝負なのです。いかにアクティブにエンゲージしながらスマホを使えるか? それが、脳科学の 最新研究によって明らかになりつつあります。

スマホのネガティブキャンペーンの現在

こうしたスマホのポジティブな可能性の一方で、これまで日本に限らずアメリカでも、 スマホのネガティブばかりが強調されてきました。
いわゆる「ネガティブキャンペーン」。過去にも、世に出たイノベーションは、多かれ 少なかれ、常にこういう事態に巻き込まれてきた歴史があります。

しかし、私たちが日常的に使っているスマホがネガティブキャンペーンに晒され続けているのを見て、「本当にそうなのか?」「そればかりなのか?」「良い面もあるのではないか?」と思われていた人も少なくないでしょう。
もちろん、ネガティブな部分はまったくゼロではありません。しかし、ポジティブな部分も大いに見つかってきている。
だから、
「悪いところもあるけれど、良いところもあるだろう?」
「実際は、どっちの面が大きいのか?」
「どのようにすれば、うまくスマホを使っていけるだろう?」
というふうに考えていくべきなのです。
スマホの登場以来、実にさまざまな角度による多面的な研究が行われてきていて、メデ ィアでしばしば見かける一方的なネガティブキャンペーンとは程遠い認識が広がってきています。
だから私は、最新の科学でスマホはどう認識されているのか、これをぜひ日本の方々に お伝えしたいのです。

「食べ物は体に悪い」?

それではどうして、ポジティブなスマホの効果がわかってきているのに、スマホのネガ ティブキャンペーンは根強く残っているのでしょうか?
スマホ研究の現在地を理解していただくために、この点を少し考えていきましょう。

科学的な研究というのは、その結果自体もさることながら、それをどのように解釈するかがとても重要です。
例えば、研究の参加者に油ものだけを3カ月にわたって食べてもらい、体への影響を調べたとしましょう。おしなべて、コレステロールや血圧で悪い数値が出てくるのが目に見えています。そんな結果が出たとして、「食べ物は体に悪い」と結論づけるのはおかしな話です。
明らかに食べ物が偏っており、違う食べ物、例えば野菜で同じ実験をすれば、コレステロールや血圧が下がり、「食べ物は体に良い」と結論づけられるかもしれない。また、3カ月でなく1週間、2時間のランニング付きで油ものを食べた場合は、悪い影響が出にくいかもしれない。
つまり、「食べ物」というカテゴリー一般の良し悪しではなく、どの食べ物を食べるか、 また、どうやって食べるかという差異が重要になるわけです。

これまでのスマホのネガティブキャンペーンは、油もの研究から「食べ物は体に悪い」 と結論づけるのによく似ています。
今から遡のぼ ること十数年前。スマホ研究の初期には、実際にスマホで認知力が低下したり、 心のウェルビーイングが失われたりすることを示す結果が報告されました。しかし実は、 その逆の結果を示す研究も数多くあったのです。
科学的には、良い影響を示す結果もあったのだから、悪い結果だけに注目して「スマホ が脳に悪い!」と結論づけることはできません。それは同時に、「スマホは脳に良い!」 と結論づけることができないのと一緒です。

科学研究のプロセスにおいては、そうやって良い結果と悪い結果が出てきて、相反する データに出くわすことはしばしばあること。
そういった場合には、どういった面がポジティブな結果につながり、どういった面がネ ガティブな結果につながるのか、より細かい検証をしていくことになります。
そして実際、最近のスマホ研究では、どのような要因がスマホのポジティブな影響につ ながるか、またその逆につながるか、ということが細かく研究されてきたのです。
使い方や使用目的、年齢、短期や長期に違いはあるかなど、いろんなファクターが研究されて、それぞれにどのような影響があり、どれくらいの効果があるのかが評価されてき ています。
つまり、現在のスマホ研究は、その評価が世界規模で熟成し始めていると言ってもいい、 まさしく過渡期にあるのです。
だから、ネガティブキャンペーンに吞み込まれて、「スマホは悪い!」と短絡的に考えてしまってはもったいないのです。最新の研究を踏まえて、うまいスマホの使い方で、ポ ジティブな効果を得ようとするマインドセットが大切です

すべてがスマホのせいなのか

近年、「スマホは悪い!」のテーマで世界的なベストセラー本も生まれていますが、だいぶ以前からスマホのネガティブな面を指し示す論文を発表していた脳科学者や教育者た ちがいました。  そうした研究に注目した学者や医者、研究者のグループが、「スマホは体に悪い!」と いう声明を出したことがありました。  これが、あたかも科学的に決着のついた真実かのように取り上げられてしまったのです。 メディアも反応して「スマホはコントロールしないとダメだ」というムーブメントが多方面から湧き起こり、いわゆるネガティブキャンペーンが形づくられていきました。

一方で、その「スマホは体に悪い!」声明から数日後、「その内容はおかしい」という反 対派の声明だって発表されていたのです。先に触れたように「良い結果を示す研究もあり、 さらに研究が必要だ」「まだ少ない特定の研究結果から一般化し過ぎてはいけない」といった反論です。
しかし、そうした反応はあまり取り上げられませんでした。スマホに限らず、ネガティ ブでセンセーショナルなものほど、人々の興味を引いて、売れてしまう。
ネガティブなものほど気になってしまうのは、人間の進化の過程で遺伝子に刻み込まれ た悲しい性なのです。
こうして、スマホは現在のように問題視されるようになり、「スマホ依存」や「スマホ中毒」などの言葉が生まれました。たとえ、スマホ以外の部分に問題の根源があったとしてもそれらは無視されて、すべてがスマホのせいにされてしまうようになったのです。
こうして、ネガティブキャンペーンは世界に広がっていったのです。

スマホでできる脳を活かす習慣

しかし、世界中の人々が、今もスマホを使っています。誰もが手放さないし、手放すことはできません。なぜなら、スマホが便利で欠かすことができないことに加え、実はスマホには、私たちの体や心にポジティブな影響があるからです。
完全にネガティブばかりであれば、私たちの生活にここまで根付くことはありません。 そして、実際に、ポジティブな影響をもたらす使用方法などが科学的に明らかにされてきたのです。

だからこそ、今私たちが取り組むべきは、スマホのポジティブ面にしっかり光を当てることだと思うのです。私たちの脳や心が持っているポテンシャルをフルに活かすためにスマホをどう活用するかがなのです。
本書では、スマホでできる「脳を活かす習慣」を詳しく解説していきます。「はじめに」でも挙げた、次の4つのカテゴリーから科学的裏付けとなるエビデンスがしっかりし たものだけを厳選してわかりやすくお伝えします。

1「インプット」:スマホだからこそできる超速、超効果的インプット
2「エンゲージメント」:集中力やマインドセット、勉強にも役立つ  
3「ウェルビーイング」:SNSで周りとつながりハッピーになる
4「モチベーション」:スマホをやり過ぎず持続可能なモチベーションを

「インプット」のポイントは、マルチメディア。音、映像、文字の多様なインプットがスマホによって簡単に可能になっています。
モノメディア(一つのメディア)よりも、映像や音、文字が出てくるマルチメディアの 方が、インプットとしては脳を効率的に使えることが明らかになってきました。
動画のスピードや効果的なメモの取り方、ChatGPTなどの生成AIを使った現代のインプット法を、最新科学を踏まえて解説していきます。

「エンゲージメント」は、スマホについて考察する時、とても大事な要素です。自分でタッチパネルに触って手を動かして、スマホからのインプットに積極的に頭を使う。それが うまくできると、脳にポジティブなスマホの効果を発揮することができます。
例えば、YouTubeを見るよりも、ゲームをする方が脳に良いという研究結果があります。スマホの動画を受動的に見ているよりも、見た映像に手と頭を使って反応するスマホゲームの方がよりエンゲージメントを高めるのです。
その他にもスマホゲームを使って、クリエイティビティ(創造性)やコミュニケーション力を高めたり、認知能力を高めて仕事や勉強のパフォーマンスを上げたりすることが可能です。

「ウェルビーイング」のになるのは、やはりSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サ ービス)です。人によって向き不向きがあったり、使い方によって効果が変わってくることが、これまでの研究で明らかにされてきました。
そこで、じっくりと最新科学が明かしたスマホのSNS最大活用法を紹介していきます。
ちなみに、スタンフォード・オンラインハイスクールの設立当初、私の個人的なこだわりとして、「卒業生同士が結婚していないようでは、学校とは呼べないな」と思っていました。とはいえ 15 年以上前の当時は、オンラインではなかなか難しいとも想像していました。ですがそれは、学校創立から3年ほどで、実現しました。
今やマッチングアプリが若い人の間では当たり前になっていますが、オンラインで人とつながることで、「ウェルビーイング」を高めていける。SNSがメンタルに悪影響を及 ぼすことがしばしば取り沙汰されますが、それもやはり使い方なのです。科学的なエビデ ンスに基づいて、効果的なスマホの習慣を身につけるのが肝心です。

そして、スマホ時代に最も重要なのが、持続可能な「モチベーション」。  YouTubeにスマホゲーム、SNSなどなど、ついついハマってしまうアプリやコンテンツが、スマホには詰まっています。
それだけにやり過ぎが心配です。自分や、自分の子どもはスマホ依存なんじゃないか? スマホ依存を防ぐにはどうしたらいいか?
スマホ時代を生きる私たちにごく自然な悩みごとに、科学的な答えを見つけていきたいと思います。

スマホが良いか悪いかの二元論はもう古い! 最新の科学の答えはやはり、スマホも使い方次第なのです。
それならば、悪い使い方を避けて、良い使い方をしていきたい。
さっそく次章から、じっくりと説明していきましょう。

第1章
知られざるスマホのパフォーマンス

スマホに使われずに、スマホを使え。 スマホのパフォーマンスと 自分のパフォーマンスを同期せよ。

「スマホは怖い」は本当か

知ってしまったら怖くなるようなスマホの研究結果は、実際に存在します。例を挙げてみましょう。

・1時間スマホ使用で、睡眠が 16 分減る
・スマホ使用1時間ごとに6%ずつ成績が下がる
・スマホ使用1時間ごとに7%ずつ集中力が下がる
・1日平均2時間以上、週末5時間以上でうつ病のリスクが大きく上がる
(“Screen Media Overuse and Associated Physical, Cognitive, and Emotional/Behavioral Outcomes in Children and Adolescents: An Integrative Review.”〈2022〉より筆者翻訳)

この他にも、スマホが肥満につながったり、自分の衝動が抑えにくくなったり、思考力が落ちたりと、さまざまな悪影響を示す論文がいくつも出されてきました。
興味のある方は、本書の巻末に文献リストを付けていますので、ご覧いただけたらと思います。

こうした主張は名だたる論文誌で科学的に検証されたものからきているのも間違いありません。しっかりとした科学的エビデンスが背景に存在します。
そうなれば、
「スマホは怖い」
「スマホは害毒だ」
「スマホは依存物だ」
とスマホが悪者にされ、重大な社会問題として取り沙汰されてしまうのも無理はないかもしれません。

しかしそれでは、とてつもなくもったいない。これらの目くらましに惑わされないでいただきたいのです。こうした主張の背景を少し注視してみるだけで、スマホは断罪するに足らないものだということがすぐにわかってきます。
さらに、こうした恐ろしいスマホの悪影響の指摘にもかかわらず、なぜスマホに良い影響があると言えるのかがはっきりとわかってきます。
この章では、スマホのネガティブキャンペーンの裏を解き明かして、最新の研究からスマホが持つ本当の良い影響をご紹介していきましょう。

スマホのメンタル影響をメタ分析すれば

スマホは本当に悪なのか? 最新研究の現在地はどこなのか? これを考えるのに非常に重要な論文があります。
それは、文字通り「SNSと心のウェルビーイング(Social media and psychological well-being)」と題された論文。スマホのメンタルへの影響についての有力な研究226本をまとめ直して、スマホの悪い影響と良い影響を再評価するというものです。
ここまで説明してきたように、これまでの研究では、スマホの悪い影響を示すものと、良い影響を示すものの両方がありました。

例えば、本章の冒頭のように「スマホ使用時間が増えると、うつ病のリスクが上がる」 という結果を示す研究もあれば、その逆の結果を示す論文もあったわけです。
しかし、それぞれの対象者や条件が少し違ったりする。それらをすべてガッチャンコして、全体を見渡して、スマホのメンタルへの影響を検証すればどうなるか。
これまでの研究結果を基に、さらに精密な分析を行うということで、「メタ分析」と呼ばれる研究の手法です。

そのメタ分析が出した結果、スマホの使用時間とメンタルの相関は、「0.01」である ことがわかりました。ここで言う「相関」とは、スマホの使用時間と良いメンタルの状態の関係性の強さを表しています。
スマホを使用すればするほど、良いメンタルになるという傾向があり、その傾向が最大限に強ければ相関は「1」。スマホとメンタルがまったく関係なければ「0」。スマホを使 うとメンタルが悪くなる傾向が最大ならば「-1」。
そしてメタ分析結果の「0.01」。これはまさに誤差の範囲内で、統計的に有意ではない、つまり、スマホの使用時間自体とメンタルには相関がないという結果が出てきたのです(しかも、誤解を恐れずに言ってしまえば、どっちかというのであれば、スマホを使用すればメンタルが良くなる方にほんの少しだけ寄っているわけです!)。

スマホには悪い影響もあるかもしれないけれど、一方で良い影響もある。全部の研究結 果を合わせてみると、良い点と悪い点が相殺され、全体的にはどちらでもない 。
そうなった場合、さらに細かく、どんなスマホの使用が悪影響を及ぼして、どんな使用が良い影響を及ぼすのかを研究する必要があります。最近のスマホ研究は、まさにそれを 明らかにしてきたのです。
実際に、いくつかのことに気をつけてSNSを使うと心のウェルビーイングがアップすることがわかってきています。この点については、第4章で詳しく見ていきたいと思います。

スマホで記憶力アップ

スマホの良し悪しは使い方次第。この点をもっと理解していただくためにメンタルへの影響以外にも、スマホがもたらす良い影響について、最新科学からいくつか厳選してご紹介しておきましょう。まず初めは、ロンドン大学で行われた研究からの紹介です。

一つ目が、「記憶力アップ」です。以下のような実験をイメージしてください。
1分間に、大きなスクリーンにつぎつぎと赤い数字と黒い数字がランダムに映し出されます。のちほど行われるテストで、赤い数を正確に覚えていれば、一つにつき1000円もらえます。黒い数は100円です。つまり、赤い数字の方が黒の 10 倍の値打ちがあるわ けです。
このシンプルな数字記憶ゲームを使って、 二つの参加者グループで実験していきます。 何も持たずに頭だけで覚えておくグループと、スマホのノートアプリを使ってメモを取る方法の2種類です。

数字はどんどん出てきますから、すべては記録しきれません。参加者が自分なりにできるだけのメモを取ってやっていきますが、もちろん、10 倍の価値のある赤い数字の方を優 先してメモしていくことになります。
どちらのグループも数字を見たあとにテストをしますが、テスト中は何も見てはいけません。つまり、メモを取ったグループの参加者も、テストをする時は自分のメモを使うことができないというわけです。
はたして「頭だけ」グループと「スマホでメモ」グループで、テストの結果に違いが出るのかどうか?
実際に行われた実験の結果は、「頭だけ」グループに比べ、「スマホでメモ」グループの 方が断然に正解率が高かったのです。赤い数字の正解率は17%アップ。しかも、黒い数字はさらに大きく28 %もアップしました。

この結果は何を意味するのでしょうか?
まず、ただ記憶するだけではなく、スマホに打ち込むという能動的な「インプット」のプロセスを経たことで、脳のエンゲージメントが高まったため記憶力が上がったという解釈ができます。
ただボーッと見るのではなく、見たものをスマホにインプットするという脳を使う動きで、17%記憶力が上がったというわけです。
それではなぜ、黒い数字の記憶力もアップしたのか?
ここで注目すべきが、メモを取ることの安心感です。メモが、「大事なことをスマホに入力した」という自信や、「また見ることができる」という落ち着きにつながるというわけです。
そのことで、赤の 10分の1しか価値のない黒い数字にも、より多くの意識を向けること ができた結果、黒い数字の記憶が 28%もアップしたと解釈できるのです。
いずれにしても、 17%の記憶力アップ、 28%の記憶力アップですから、研究結果は、「スマホを使うことで記憶力がアップした」ことを示しています。
本章の冒頭では「スマホが認知力を下げる」という研究結果を挙げましたが、その真反対の結果が明らかにされているのです。要するにその差は、スマホの使い方の違いなのです。

ちなみに第2章では、このあたりを深掘りして、スマホ入力のようなタイピングと手書き、どちらが記憶力が上がるのかなどについても解説していきます。
先に結論を明かしますと、読んでいるのか、聞いているのか、情報のインプットの形によって効果的なメモの仕方が違ってくる。
つまり、情報をインプットする時に、がむしゃらにメモを取っては記憶力の無駄遣いになってしまうかもしれないのです。インプットの仕方によって最適のやり方を選ぶことで、 記憶力をアップさせることができます。

肥満対策や注意力アップにもつながる

スマホの良い影響、二つ目は、「肥満対策」です。
本章の冒頭に紹介したように、これまで「スマホを使い過ぎると肥満になる」という研究が注目を集めてきましたが、よくよく調べてみるとそうではないということがわかってきました。
前述のメンタル同様、スマホと肥満の関係については、全体の相関を見てみると、あま 関係がないことがわかってきたのです。
それどころか上手な使い方をすれば、スマホの使用が良い影響を与えるという結果も示されてきています。
例えば、日本でも若者に人気のゲーム「ダンスダンスレボリューション」は、普通のエクササイズと同じくらいの運動効果が得られるとされています。さらに、上級者だと、より運動効果が大きいこともわかっています。
また、ゲームですから、楽しんでエクササイズに取り組めたり、運動に関心がない人が取り組みやすかったりすることもわかってきました。ランニングや健康管理アプリも良い結果につながることが示されています。

スマホの良い影響、三つ目は「注意力アップ」です。
スマホでみんながよくやることの一つがゲーム。さまざまな出来事が画面上で目まぐるしく起こる中で、目や手を動かして、瞬時に決断していかなくてはいけません。
そのためゲームには、注意力を高める効果があることが知られています。さらに、集中力や視野、空間認識力などもアップしてくれます。
また、ゲームによっては、画面のいろんなところでいろんなことが起きるのを認識しながら対応しなければいけません。そのため、注意力を複数の事柄に分散させる力もつくことが明らかにされています。
いわば、スマホゲームは、脳にすごく良いのです。これはとてつもない朗報です。第3章で詳しく解説していきましょう。
また、子どものみならず、大人もスマホゲームを魅力に感じている人は多い。それには実は科学的な理由があって、ゲームは人間の「心の三大欲求」を満たしてくれるからです。これについては第5章で詳しく解説します。

知られていない検索のポジティブ面

スマホの良い影響が科学的に解明される一方で、スマホのネガティブな面ばかりが強調されてきたのはここまで述べてきた通りです。
言ってみれば、「ネガティブ洗脳」です。そして、スマホのネガティブ洗脳にはいくつかのパターンが存在してきました。
例えば一つの研究論文を取り上げ、悪い影響を示すところだけに注目し、他をいっさい語らない……。他の部分では良い影響も示されているにもかかわらず。つまり、悪いところだけ論文から「切り抜き」してネガティブ洗脳していくパターンです。

わかりやすい例に、「グーグルエフェクト」があります。必要な情報はいつでもグーグルを使って検索、つまりググれると思っているので、実際記憶しようとしなくなってしまい、覚えが悪くなる、という主張です。
名前もついているくらいなので、ずいぶん拡散された現象なのですが、実はこれは、根拠となる研究論文の全貌を把握していない言説なのです。
確かに論文中には、ググったもの自体は覚えなくていいと思ったので記憶力が下がったという記述がありますが、一方でそのググったものがどこにあるかという記憶は上がっていたということが明示されています。
つまり、ググったあと、そのページのどのあたりにどんなことが書かれていたのか、と いった記憶力は、以前よりもアップしていたのです。
要するに、一部の記憶は下がっていたわけですが、その分上がっているところもあった。 記憶しようとするものの対象が変わっただけなのです。
それにもかかわらず、記憶が下がった部分だけを「切り抜き」して注目させることで、記憶力全体が下がってしまったかのような「ネガティブ洗脳」が広がってしまったのです。

条件省きの「ネガティブ洗脳」

似たようなネガティブ洗脳のパターンに、研究の大事な条件がバサッと省かれてしまうようなものがあります。
例えば、本章冒頭のネガティブな研究結果に以下のようなものがありました。

・スマホ使用1時間ごとに6%ずつ成績が下がる
・スマホ使用1時間ごとに7%ずつ集中力が下がる

これらは実は、2歳までの子どもたちに限定して行われた研究に関するものでした。またここで言う「成績」とは数の認知に関するもの。
つまり、2歳以下に限定すると、スマホの使用時間に応じて、その後の数の認識などの成績や集中力に悪影響が出る、というものだったのです。
そして、実際には他の研究などで、違う年代ではスマホの使用法を変えると集中力が増し、成績も上がるなどの報告がなされています。
ですから、前述のスマホのネガティブな指摘は、「2歳以下に限定して」という大事な研究の条件が省かれているのです。要するに、スマホの「ネガティブ洗脳」に都合の良いように研究結果が使われていたことになります。
乳幼児期とは、人間の基礎的な認知機能が一気に発達する時期です。その時期においては、スマホやタブレットの使用で悪影響が生じやすい。しかし、年齢が上がれば話は別。学習アプリや複雑なゲームなどで脳をエンゲージさせることができ、SNSなどを正しく使うことで周りとのコミュニケーションも高められる。
そういう多面的な視点を、最新のスマホ研究は提示しているにもかかわらず、大事な条件を省き誇張されたネガティブ洗脳が蔓延っているのも事実です。

同様に、「使い過ぎた時」のスマホの悪影響を研究した論文なども、「条件省き」のネガティブ洗脳によく使われます。「極端に長時間使った場合」という大事な条件が抜け落ちてしまっているのです。
平均的な使い方をしていればまったく心配はないのに、とんでもない長時間にわたって使ったことは言わずにうつ病のリスクが上がってしまう、とされてしまったケースもあり ました。
前述のメタ分析のように、平均的な使用時間などすべてのケースを含めて検証すれば、スマホ使用とうつのリスクに相関関係は見られません。
要するに、普通に使っていれば心配はまったくないのに、極端なケースのみで全体が悪いような印象にされているのです。

スマホに悪い面がまったくないわけではありません。ですが、良いところ、プラス面、ポジティブ面も、ちゃんと注目していかなくてはいけません。

一時的な話の極度な一般化

さて、ここまで見てきたように、スマホの影響についての話は、子どもに関するものが非常に多い。親としては、子どもにスマホを使わせていて大丈夫なのか、という心配がやはり大きいのもその理由の一つでしょう。
だからこそ、ネガティブキャンペーンについつい反応してしまう。ごく自然な反応だと思います。私も2児の父なので、痛いほどよくわかります。
ただ、だからこそ気をつけなくてはいけません。先ほどの「グーグルエフェクト」にしても、確かにいつでもググれると思って何かを調べた時、その場でググったもの自体の記 憶は定着しにくくなるかもしれません。
例えば、小学3年生のひかるくんが、「徳川家康」を検索する。その検索だけで「徳川家康」について記憶するチャンスは、他の勉強法に比べて低くなる。それがグーグルエフェクトです。出てきた結果はいつでもググればいいと思ってしまうからです。
ですがこれは、ひかるくんの記憶力の減退ではありません。ググって調べたことで、ひかるくんの「徳川家康」に関する記憶のポテンシャル自体が落ちてしまうわけではないのです。ましてやググることが、ひかるくんの全般的な記憶力に影響を与えるわけでもありません。
現に、ひかるくんがのちに歴史の授業で「徳川家康」を学べば、しっかりと覚えることができる。
つまり、ググることを習慣化しても、その人自身の記憶力の減退にはつながらないのです。グーグルエフェクトは、ググったこと自体の記憶が、他の学習法よりも残りにくいということを示しているに過ぎません。
だから、ググること自体で私たちの記憶力が悪くなることはない。ググるだけで「徳川家康」をしっかりと覚えることはできないかもしれない。でも、それは、みんなが学ぶように歴史の授業で学べばいい。
むしろ、「徳川家康」をググったことで、歴史に興味を持ったり、ものを調べることに面白さを感じて、学ぶことの意欲が上がったりさえするかもしれないのです。

しかし、かわいい子どものことを案じれば案じるほど、一時的で限定的な効果でも、一生を通じたすべてのことに当てはまるような気がしてしまう。だから「ググったら物覚え が悪くなって、一生この子は歴史のテストでいい点数が取れなくなってしまう」などと心配してしまうのも自然な親心なのです。
でも、安心してください。ここまでお話ししてきたように、「グーグルエフェクト」がそんなことを引き起こす科学的根拠はありません。
一時的だったり、限定的だったりする話を、誇張して一生の記憶力についての不安や心配に結びつける。そんな「極度な一般化」によるネガティブ洗脳には、十分気をつけなければいけません。

スマホ特有の悪影響にあらず

これまでのスマホのネガティブキャンペーンで最も注目を集めたのが、「スマホ使用が集中力の低下につながり、パフォーマンスが低下してしまう」というものです。
「スマホが目の前にあると気が散ってしまい、勉強や仕事のパフォーマンスが下がる」
「スマホの電源を切っても、目の前に置くだけで同様の悪影響がある」
実際、こうした事実に関する研究論文があり、オンライン記事からベストセラー書にいたるまで、さまざまなところでスマホの悪影響を示すものとして使われてきました。
しかしこの件に関しても、「スマホはダメ」という結論ありきの偏りが見受けられるの です。
例えば、「スマホが目の前にあると気が散ってしまい、パフォーマンスが落ちてしまう」という結果の他に、他の部屋に置いておけばパフォーマンスが低下しないということがわかっているのです。しかも、そのことは同じ論文の中で指摘されています。
要するにこれも、悪影響だけを「切り抜き」で使ったネガティブ洗脳だったのです。

よくよく考えてみましょう。お腹が空いていて、目の前においしそうなお蕎麦があったら、食べたくなって気が散ります。
また、好きな人が目の前にいたらドキドキしてしまい、やるべき仕事や勉強に集中できず、パフォーマンスが下がってしまう。
だとすれば、目の前にあることで集中力やパフォーマンスが下がってしまうのはスマホ特有の悪影響ということではなく、私たちが気になるものならどれについても言えることです。つまり、集中力やパフォーマンスが下がる要因をスマホの悪影響にするのも悪質なネガティブ洗脳だと言うことができます。スマホが悪いと決めつけて、「とにかくスマホのせい」にする論法にも注意が必要です。

SNSが孤独を呼ぶ? 孤独がSNSを呼ぶ?

ここまでスマホのネガティブ洗脳の事例をいくつか見てきましたが、ちまたで最もよく見かけるパターンをラストにお話ししておきましょう。
前述のSNSによるスマホのメンタルへの悪影響の例を思い出してください。スマホで SNSを使うことがネガティブな感情につながり、うつの原因になるというものです。
しかし、SNSとメンタルの関係性はそう単純ではないことは前述の通りです。

この点をもう少し深掘りしていきます。SNSがウェルビーイングにつながる使い方をしている人たちは、もともと対面で持っている関係性を、SNSで維持したり強めたりしている人たちである、という傾向が判明しています。
学校や職場、サークルや飲み会で仲良くなり、交流が続いている仲間たちとLINEグループでやり取りをする。そういった場合に、SNSの良い面が発揮されて、良いメンタルにつながるということです。
逆に、SNSでうつ病などのリスクが出てきてしまう人たちは、もともとSNSを始める前から、自分が持っている人間関係に満足していない傾向がある。しかし、リアルで足りていないものを、SNSで代替的に埋め合わせようとしても、なかなかうまくいかず、状況が悪化してしまうことになりかねないということが明らかにされてきました。

そうした結果から考えられるのは、SNSが原因でうつ病などのメンタルリスクが上がることも確かにありうる一方で、その逆の可能性も大いにありうるということです。
SNSが原因で、メンタルに悪影響が出たのか、それとももともと人間関係がうまくいっていないことが原因で、結果としてSNSに引きこまれていくのか。SNSが孤独を呼んだのではなく、孤独がSNSを呼んだ、という可能性もあるのです。
SNSの使用とうつ病のリスクが相関しているからといって、必ずしもそこに予期したような因果関係があるとは限らない。そこをごっちゃにして「因果関係ごまかし」を使ったネガティブ洗脳にも、用心しなくてはいけません。

人間はネガティブな情報に引かれる

ここまで見てきたように、ネガティブ洗脳のパターンはけっこうシンプルです。研究から「切り抜き」したり、実験の大事な全体を「条件省き」したり、「極度の一般化」をしたり、「とにかくスマホのせい」にしたり、「因果関係ごまかし」をしてしまったり。
そんなシンプルなごまかしでも、一気にネガティブキャンペーンが広がってしまう。これには科学的な裏付けがあります。

まず、人間はネガティブな情報が気になり、引きつけられてしまう。だから、メディアはネガティブな情報を扱いたがる。
実際、近年の脳科学の研究で、ネガティブな事柄に対する脳の反応の方が、ポジティブな事柄への反応よりも、断然強いことが明らかにされてきました。
これを「ネガティビティ・バイアス(negativity bias)」と呼びます。
とっても幸せなディナーのひと時も、最後の不快な店員のひと言で、台無しに。そんなことはよくあることです。つまり、幸せに感じていた時間がどれだけ長くても、そのネガティブな一瞬の記憶の方が勝ってしまうわけです。
ポジティブより、ネガティブな事柄に強い気持ちを感じてしまうのは、私たちの脳の扁桃体(図1-1)が持つ基本的なメカニズムです。ネガティブな感情や思考のおかげで、 失敗を繰り返さなくて済んだり、より正しい決断ができる。ネガティブな心の働きは、時に私たちを救ってくれさえします。
だからこそネガティブな心の働きは、人間の進化の歴史の中で、私たちの脳の仕組みにしっかりと刻まれてきました。

人間の先祖が天敵に囲まれて暮らしている大自然の中で、同じ過ちを繰り返しては命の危険に晒される。そこで、 強烈なネガティブな気持ちがあることで、もう一度同じ間違いをおかさないように気をつけることができる。ゆえにネガティブな心の働きが、進化論的にも優位な能力として、人間のDNAに刻まれてきたのです。
ですからネガティビティ・バイアス が人間にある限り、スマホなどに代表されるネガティブキャンペーンが広がってしまうのは必然でもあります。
実際、新しく生まれたイノベーションへのネガティブキャンペーンは、人類史上でも稀なことではありません。こうしたネガティブキャンペーンの歴史はインターネットやゲームを待つまでもなかったのです。
例えば、ラジオは子どもの教育や聴覚の発達に悪いとか、テレビが子どもの成長や健康に悪影響を及ぼすなど。もっと遡れば、公教育が盛んになり学校制度が広く導入されるや否や、強制的な教育が子どもたちの自然な成長を害するなどの反応もあったようです。
面白いところだと、公園にある砂場。 19 世紀の半ばにドイツで子どもの遊び場に砂場が登場するやいなや、子どもたちが熱中し、それを心配して砂場の悪影響が社会問題になったりもしました。
もちろん、私の専門の哲学の祖であるソクラテスが、本によって人間の記憶力が劣化することを心配して、本を勧めなかったのも有名な話です。

バッシングばかりの開校当時

イノベーションへのネガティブな反応といえば、私の専門のオンライン教育もまた然り。
スタンフォード・オンラインハイスクールをスタートさせた当初は、それはもう大変でした。それこそ振り返れば、ネガティブバッシングしかなかったと言ってもいいくらいで す。
2006年当時、今でこそ知られるようになった「コーセラ(Coursera)」などのオンライン教育の巨大プラットフォーマーはまだ生まれていませんでした。
しかもオンラインの学校といえば、大学レベルかそれ以上の大学院、社会人を対象にしていたものがほとんどでした。しかも当時から、オンラインの授業の修了率が低かった。興味本位で始めても、最後まで学び通す人たちが少なかったのです。  要は、オンライン教育という新しい流れへの熱狂はあれども、「オンライン教育は、あまりうまくいかない」という風潮がありました。
そんなタイミングで、中高一貫校をオンラインでやると私たちは言い出したわけです。それこそ「バカか!」くらいの反響でした。大人にもできないことを、子どもにやらせるとはどういうことか、ということだったのでしょう。

さらに、コンピュータと向き合ったところで、思春期に育むべきである社会性や感情のコントロールを身につけられるはずもない。そんなことも言われていました。
実際、私はそうした心配を直球ど真ん中に捉えて、オンライン学校を作っていくための 努力を真摯に続けていきました。
オンラインでもトップの教育ができる。そのことを示そうと、心理学や脳科学の成果を活かしながらオンラインの長所を存分に出して、伝統的な学校よりも学校らしく、学びの実績を積み重ねようと努力してきました。
それが徐々に社会的にも注目され、心配していた親たちも変わり始め、オンライン教育の普及が加速度的に進んでいきました。コロナ前にすでにアメリカや世界のオンライン教育は爆発的に成長していったのです。
「オンライン教育も良いじゃないか」という声の高まりはやがて、「うちの子どもにはオンライン教育の方が合っている」という声にまでつながるようになっていきました。
「もう普通の伝統的な教育は、子どもには受けさせたくない」という親がずいぶん増えてきた印象もあります。
振り返れば、
「あのネガティブバッシング一色だった立ち上げ時は、いったい何だったんだろう?」
とさえ思います。
新しい取り組みには、賛同ばかりでなく批判が必ず起きるものです。そして、本当の成果が示されれば、ちゃんと人々に認められるようになる。
これは、スマホも同じかもしれません。

スタンフォードの「スクリーンノム」研究誕生

話を元に戻しましょう。これまでのスマホ研究の結果からネガティブキャンペーンが起こった。しかし、よくよく見てみれば、良い影響を示すものもある。より精密にスマホの 影響を調べていかなくてはいけない。
そして、現在のスマホ研究は新しいテクノロジーを導入してさらに進化しています。
例えば、これまでのスマホ研究においては、研究データの「甘さ」がたくさん指摘されています。

これまでは「スマホを見れば見るほどうつのリスクが上がる」など、スマホの使用時間に関するテーマが多かった。そこで「何時間見ていたか」が極めて重要なポイントになるわけですが、案外、その調査が適当だったりするのです。例えば、調査対象者に「あなたは何時間くらい使っていますか」というような主観的な回答を引き出す質問をしているものがほとんどだったのです。
主観的な物差しでも、ぴったしカンカンの直感を持っていればよいのですが、なかなかそうもいかないのが現実です。
とりわけスマホに関しては、ネガティブキャンペーンのせいで「スマホを見過ぎているとマズイ」という意識を持っていたりする。そうなれば、スマホの使用時間を少なく見積もって答えてしまったりします。
逆に、自制の気持ちが強い人は、本当は大してスマホを見ていないのに、けっこう長く見ていると答えてしまったりもしてしまいます。
いわば、スマホの使用時間に関しては、その時にどんな質問の仕方をするかで、答えが変化してしまう可能性が大きいのです。

もっと言えば、今やスマホの使い方は本当にさまざまで、スクリーンを何時間見ているか、などと使用時間の長短だけを言及しても意味がなくなってきています。
より具体的に、「どのように使っているのか」「どれくらい使っているのか」「時間を意識することで、使い方がどう変化していくのか」といったところまで、調べる必要があるのです。
つまり、相関が見えない状況を放置せず、原因をきちんと突きとめようということです。そこで今注目されているのが、スタンフォード大学の「スクリーンノム(Screenome)」 の研究です。

スクリーンノム? どういう意味でしょう。
「Screen」に付く「-ome」とは、集合を表す言葉です。
ですから、「スマホの操作に関する秒単位のデータの集合体」とでも言えば、イメージ しやすいかもしれません。

同じく「-ome」が付く言葉に、「ゲノム(genome)」があります。「gene(遺伝子)」に「-ome」が組み合わされ、生物の遺伝情報の全体を表す言葉になっています。
遺伝子のゲノムはまさに人間を作り上げているわけですが、今や人間はスクリーンを見ることが大事な生活の一部になっています。
遺伝子配列がその人の体を作っているように、スクリーンでの行為がその人のライフスタイルを作っている───そこで、「スクリーンで日々やっていることを解析できるような アルゴリズムを作りましょう」というのが、スクリーンノムのコンセプトです。

「あなたは、スマホで何をしていますか」

このプロジェクトがスマホ研究界隈で今、非常に盛り上がっています。それは、「スマホの使用時間だけを被験者に訊ねる研究は意味がないよね」ということに多くの人が気づいた表れでもあると思います。
さまざまな研究において、「この人はどういうものに、どのくらい時間を使うようにしているのか」を、匿名でありながら解析できることが大きな特徴です。

シンプルに言えば、スマホ使用者のログ(記録)を取得します。本人の許諾を得た上で、すべてのログを取るのです。人間の目で見たら「このサイトって、ソーシャルメディアだよね」「これはゲームっぽいね」「どっちかわからないなぁ」というものも、AIが判別します。
使用時間を正確に把握することと、「これはソーシャルメディア」「これは学習アプリ」 としっかり使用目的を区別することで、スマホのどんな使い方が良い影響を与えるかを正 確に分析することができます。
使用時間と使用目的が、人間のゲノム解析と同じで、それぞれの人のスクリーンノムが色と長さのビジュアルで得られます。こうして匿名性を保ちながら、研究に使えるデータを集めているのです。
「何時間見ていますか」のような粗い問いの研究では正しい結果を導き出せないことがわかっていましたから、このスクリーンノムの解析は、スマホと人間のリアルな関係性を分 析することに非常に役立っていくはずです。
「あなたは、スマホで何をしていますか」
という問いが、スマホのさらなるパフォーマンスを解き明かし、ひいては私たちのパフォーマンスも高めてくれるというわけです。

ご存じの通り、スタンフォード大学の立地は、シリコンバレーのベイエリア。人工知能の発展は、まさにこの地を中心に進んできたと言っても過言ではありません。他にもこう したテクノロジーの先端的な研究を数々行っています。
そんなスタンフォード大学発のスクリーンノム。スクリーンの中で、実際何が行われて いるのか。人とスマホのリアルな関係性をしっかりと解析して、より良いスマホの使用がどんどん解明されてきています。言いかえれば、科学的に裏付けられたスマホの使用が、 今後も世の中に広められていきます。
私たちはひと足先に、最新研究から効果的なスマホの活用法を学んでいきましょう。
次章ではまず、スマホを使った効果的なインプット術を解説していきましょう。