「英語」は科目ではなく、言語学習である。

教育

年に2回ほど「教え人フォーラム」と銘打って日本の教育者向けのワークショップを行っています。国際基督教大学高校(ICU高校)の卒業生と現職員を対象とした活動で、高校のキャンパスで夏休みと年末の時期に行っています。この夏も「教え人フォーラム」で新旧の教育仲間たちと交流してきました。

英語カリキュラムのここやあそこを云々することも可能かもしれませんが、そうではなくて、ICU高校がもつ学校の特色がゆえに実現可能である英語教育環境があると私は考えています。ここでは、その点を私の記憶に基づいて少し紹介して、日本の英語教育の抱える問題と対比してみたいと思います。

ICU高校でのイマージョン教育

ICU高校は様々な国からの帰国生を受け入れていることで有名です。私の学んでいた当時は帰国生が3分の2、日本のみで生まれ育った「一般生」が3分の1という構成でした。欧米とアジアの国々からの帰国生が最も多かったようですが、アフリカや南米の国々からも帰国生が集まっていように記憶しています。

帰国生たちの日本語のレベルや日本への順応度は多様でした。海外に近年、数年だけ居住だったため、ほとんど一般生と状況が変わらないような場合もあれば、生まれてから国外に居住しICU高校に入学する直前に帰国し 、日本への順応どころか、日本語もそれほど流暢に話さないという生徒もいました。

それから、海外に長く居住していたものの、日本人学校に在籍し、日本のカリキュラムで日本人コミュニティーの中で暮らしてきた生徒も多数いました。ほとんどの生徒が日本人生徒でしたが、非常に複雑な形で、ユニークな多様性をはらんだコミュニティーがICU高校の特色の一つです。

多様なバックグラウンドからくる帰国生のニーズに対応して、英語、数学、国語はレベル別のクラス編成になっていました。例えば、英語のトップのクラスは、米国、英国の高校レベルで、シェイクスピアなど高度な英語教材を使っていました。

すべてのレベルでネイティブの英語教師により、会話、リーディング、ライティングが英語のみで教えられていました。 下2つのレベルは主に日本で生まれ育った一般生、もしくは、英語圏外からの帰国生が多く、 週一度だけ日本語で英語文法のクラスがありあました。

一番下のレベルでも、高校一年の段階ですぐに英語レポートの書き方の基礎を学び、すぐにリサーチレポートを書くというようなカリキュラムがあったと思います。英語圏外からの生徒にとっては、大きなチャレンジではありますが、活きた英語 に直接触れることによって言語能力向上を図る、イマージョン(immersion)方式がうまく機能していたと思います。

上位のクラスも含めて、英語カリキュラム全体としても、多様なバックグラウンドからくる生徒のコミュニティーを実現することで、 日本ではかなり珍しい形の英語教育環境を実現していたと評価しています。

私自身は下から2番目のクラスにプレースされました。数学や国語も、他の日本受験を突破してきた一般生たちと同じようなクラスとなりましたが、日常では、日本にまだまだ順応し始めの英語圏からの帰国生と主につるんでいました。

海外での暮らしぶりや文化を聞いて驚いたり、「これは英語でどんな風に言うの?」という具合に活きた英語の表現を教わったり、それを生かして一緒にナンパに出かけたり。英語 や日本以外の文化に大きく影響を受けた若者と日々に接し、日本にいながら海外留学しているような雰囲気を楽しんでいました。

私の人生において、結果海外留学へ心が開いたのも高校でのこうした経験が大きく影響したことは間違いないと思います。英語力の方も英語のクラスでのイマージョンに加えて、そうした友人とのやり取りの中で、さらに実用的な英語の話し方を学び楽しむことができ、英語を話すことへの精神的障壁も大分取り除かれていったと思います。

いわば、英語の授業やプログラムを超えて、学校全体として、イマージョンの環境が整っていたのではないでしょうか。

科目として成り下がる英語

さて、こうしたICU高校での英語イマージョンの環境は日本の英語教育において、非常にユニークなものだと感じています。現に、一般的に日本における英語教育は、それと真逆で、 生徒にとって本来的に「言語」であるべき英語を、「科目」としての英語に置き換えるプロセスになってしまっているとすら感じます。

日本でも英語教育の導入部分においては、生徒たちも新しい言語に触れる興奮を享受しているのではないかと思います。アルファベットをきっちり習った。こんなことが言える。ある段階で導入される新しい分野に学びの喜びを感じる。そうした現場を、生徒として、また教師としての目線から、私自身体感してきました。

しかし、その興奮や喜びもつかのま、生徒たちは詰め込み式やテストベースの教育方法に向き合っていくことになります。どうして重要なのか訳がわからないけれども、とりあえず毎週10単語覚える。主語の一致を忘れたので、テストで減点されてしまった。

そんな経験をしているうちに受験を意識しなければならない時期がすぐに訪れます。どのようにすれば点数をより多く取れるか。テストをどのように攻略できるか。ミスを少なくできるのか。

どんどん本来の言語としての英語というものから離れ、科目としての英語に向き合うことを強いられていきます。文法的に正しい文章を書いたり、正しい発音で発音したりすることが目的として内化され、生徒は英語に対して受動的で、間違うことに萎縮した姿勢を持つにようになってしまいす。

多少間違ってもスムーズにコミュニケーションをすることや、混乱しながらも違う文化や概念を学ぶなど、活きた言語としての英語に対する姿勢は徐々に失われていくことになります。

もちろん、英語教育の目的は単一的ではありません。 日常で実用的な英語を身につける、専門的な英語仕様の基礎を築く、外国語に触れることによって自己の母国語、文化や概念を見つめ直すなどといった具合に、多岐にわたり、国や地域によってニュアンスが異なります。

しかしながら、つまるところ英語教育や学習の目的は、英語が活きた言語であり生徒がそれに触れることの意義は何かということを反映したものでなくてはいけません。

英語にイマージョンする重要性と機会

長短所あると思いますがイマージョン教育は、言語としての英語に触れる喜びを維持する一助としては非常に効果的です。イマージョン教育は活きた英語に触れる機会を増やし、言語としての英語に向き合う機会を与えてくれます。

現在は英語学習の一部として徐々に取り込まれている流れがあるので、そういった動きがより活発になっていくのを見守っていきたいと思います。

また、学校が現在の英語教育を改善する中、家族レベルでも生徒をサポートしていくことができると思います。海外旅行に行ったり、ホームステイをしてみたり。

国外は難しいにしても、国内で外国人と英語を話す機会、英会話教室、SNSを利用して、海外の人々とのコミュニケーションの機会を持つこともできます。もちろん、英語圏の音楽、映画、美術館などなど、小さなことでも、英語や英語圏の文化に触れる機会は数多く存在します。

そうした大小様々な機会をできるだけ継続に提供したり、進めたりすることができるだけでも、英語へのイマージョンの効果は絶大です。イマージョンで、科目としての英語から言語としての英語に戻す努力をしていくことで、生徒の英語学習のサポートを意識していくことをお勧めしたいと思います。

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